メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ヌルイコイ|井上荒野

ヌルイコイ (光文社文庫)

ヌルイコイ (光文社文庫)

冷めきった夫婦関係や、不倫や、突然の病の宣告や、モチーフとしてはこの間読んだ「もう切るわ」と重なる部分が多いのだけれど、手触りはずいぶん違う。きっと「鳩」という青年(やはり、さらりとした女たらし)のキャラクターに依るのだろう。どちらかというと、すがすがしい読後感。

それにしても、こんな風にあっさりと殺し文句を吐かれたら、誰だって正気ではいられない。「鳩」と主人公の「棒読み」の応酬。そして「鳩」が「ふさ江さん」について述べた言葉。こういう殺し文句のツボが、きっと、作者とわたしは共通しているんだと思う。

しかし、『鳩』のどんな言葉も、「もう切るわ」のこのやりとりにはかなわない。まだ出会って間もない頃に、「歳さんはどこのひと?」と出身地を問うた妻に、歳さんは、彼女を指差し言う。

「歳さんは、ここのひと」。

こんなこと言われたら、誰だって一瞬で。