メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ワンダフルライフ

最高齢の現役女優、原ひさ子さんが亡くなった。90歳を超えて、しかも現役のまま、病院に入ることもなく(自宅で急に具合が悪くなりそのまま、だったらしい)召されたのだから、大往生といっていいだろう。原さんの出演作では、「誰も知らない」で一躍有名になった是枝裕和監督の2本目の映画「ワンダフルライフ」が、一番印象に残っている。その頃のわたしは、是枝監督についても全く知識がなく、寺島進ARATAといった好きな俳優が出演しているという単純な理由で、シネマライズに出かけたのだった。ひどい雨の日だった。

「あなたの人生で一番大切な思い出は何ですか?」

この世とあの世のちょうど境目に、ひとつの施設がある。そこがこの映画の舞台だ。亡くなった人は、その施設で一定期間を過ごし、「人生で一番大切な思い出」を選ぶ。なぜなら、あの世には、思い出をひとつしか持っていけないからだ。たったひとつの一番大切な記憶を除いて、すべて、忘れてしまう。
ドキュメンタリー出身の是枝監督の作風は一種独特で、この単純なお涙頂戴にもなりかねないファンタジー設定を、不思議な方向に昇華させる。出演者の半分にプロの役者、残りに一般人を起用しているのだ。事前に一般の人々に「人生で一番大切な思い出」について聞き取りを行い、そのなかから選ばれた人間が、映画の中で、そのまま自分の思い出を語る。美しい画面、ファンタジックな演出が見えたかと思えば、机を挟んで固定カメラにただただ淡々と思い出を語るシーンが映し出される。とても不思議な構成の映画だった。

原さんは、この映画の中で、ひとりの老女を演じていた。今は亡き由利徹さんが、女性関係の思い出ばかりを語る好色男を好演していたのとは対照的に、幼女のころにまで記憶が後退してしまった純粋な老人の役だった。ふわふわとした笑顔が優しげで、彼女と寺島進さん演じる施設職員との心の交流には、涙が込み上げた。

今、原さんが「人生で一番大切な思い出」を選ぶなら、何を選ぶんだろう。
そして、もしわたしが。

ワンダフルライフ [DVD]

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