メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

機上の佐伯誠

そんなふうに丸まってちゃ、貝になったみたいで、いけないよ。ナイフでこじ開けられてしまう。イヌが日なたボッコするみたいにしてることだ。お腹を出して、まいったをすれば、なんてことはない。そんなふうになったら、殴ったりはしない。恋人を抱きしめるように、ギュッと抱きしめてくれる。それが嵐のときの、分別というものさ。一羽のウミツバメが、嵐の中をどうして平気でいられたのか、ふしぎだとは思わないか?

毎日の寒さと雪にいいかげん嫌気がさしていたけれど、上空に出てみると、遠くの雪雲はまるで蒼い海に浮かぶ氷山のようで、少しばかり感動した。そして楽しみなのはやはり機内誌「翼の王国」の佐伯誠氏連載。このためにANA機を選んでいると言ってもいいくらい。佐伯さんの文章は相変わらず、無防備なところを狙って入り込んでくるから、油断も隙もない。いや、油断して、隙だらけになって、この温かくてどこか物悲しい文章がもっと染み込めばいいのに。

ある画家が恋人に旅先からしたためた手紙の「帰ったら、君に嵐の絵を描いてあげよう」という言葉で、文章は締められる。こんな素敵な手紙を描いた画家は誰だろう。聞いたことあるような気もするけれど、思い出せない。