メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

文鳥・夢十夜|夏目漱石

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

ほんの小学三年生の頃、はじめて飼うことを許されたペットが文鳥だった。白文鳥の雛を買ってもらったわたしと姉に、祖父が贈ってくれたのが「文鳥・夢十夜」。

ちなみにこの文庫本が選ばれた理由である短編「文鳥」は、主人公の小説家が文鳥を飼うことになり、世話が面倒くさい気持ちと小鳥を可愛らしく思う気持ちがせめぎあううちに餌をやり忘れ、文鳥は死んでしまうというもの。正直子どもに読ませるにはそぐわないものだ(戒めにはなるのかもしれないけど)。

あのとき気に入ったのは「文鳥」よりもむしろ「夢十夜」だった。今でも、大好きな小説で、特に「第一夜」は、自分の知るうちでもっとも美しい掌編のひとつだと思っている。
床に伏した女は、百年後の約束を遺し、息を引き取った。亡骸を埋めた庭に座り、男は待ちつづける。
日は昇り沈み、いつしか時間の感覚も薄れるなか、地面から芽を出した植物は、みるみる伸びてゆく。そこに咲き誇った大輪の百合に口づけをし、男は百年のときが経ったことを知るのだ。