メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

虫が怖い

大学では農薬学を専攻していた関係で、数えきれないほどの害虫を育て殖し、実験のため殺した。「単位」「卒業」というのは魔法の言葉で、そのためならばダニもゴキブリもハエも、なんてことなくなるんだよ(研究室で純粋培養したそれらは、少なくとも衛生的ではあったし)ーーと言うと、「じゃあ、虫、平気なんだ」と大抵の人に言われる。答えは否。大学を卒業して四年、魔法は既にあとかたもなく解け、今のわたしはやはり昆虫が苦手だ。

なんとなく、虫への恐怖と嫌悪感の理由について考えてみた。刺すとか咬むとか病気を媒介するとか、そういうのはこの際別にする。だって、犬猫だって噛むし引っ掻くし、病気を媒介することもある。
まず、見た目がグロテスクなこと。あと、脳がないせいか、予想も理解もできない動きをすること。そして、もうひとつ。

壊れやすいこと。

虫は、他の身近な生物のどれと比べても、明らかに、しかも理不尽な壊れやすさを持っている。あんなに頑丈なあごを持っているトンボの首や腹は、すぐにあっけなく千切れてしまう。黒光りする外骨格に包まれて王者然としている癖に、秋になって動かなくなったカブトムシの頭をつついた瞬間、ぼろっと首が外れたことがトラウマなのだと友人は言った。幼児のわたしは、通園途中の道ばたにいるバッタを恐れて幼稚園に通うことを拒否したけれど、バッタの何が怖かったかといえば、脚だ。しがみつく先端はしぶといくせに、ちょっとしたことで根元から外れてしまうバッタの脚が怖かった。

脆いものは怖い。壊してしまうから。何かを壊すと、寂しいような後ろめたいような、なんともいえない嫌な気持ちになるから、だからわたしは虫が苦手なのかもしれないな。

壊すのも壊されるのも、傷つくのも傷つけるのも、できれば避けて生きていきたいけれど、なかなか難しい。