メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

でんわがこわれてる

だいぶ前。留守電になっていることが多い人が、めずらしくすぐに電話をとったのは、午前2時だった。繋がった電話からは、ザーザーとノイズが聞こえるばかりだったので、てっきりからかわれているのだと思ったわたしは、「もしもし」を何度か繰り返したあとで、電話を切ろうとした。でも、ノイズに混ざって、何かが聞こえるような気もした。

耳を澄ますと、微かな声。一音一音区切って、
「で」「ん」「わ」「が」「こ」「わ」「れ」「て」「る」。

折りたたみ式携帯のジョイント部分はほとんど千切れて、ぶらぶらになっていたのだと後日知った。なんでそういうときに限ってあなたが電話をとろうとしたのか、いまでもよくわからない。電話で話すことはほとんどないのに、数少ない機会は決まって真夜中か明け方。相手が酔っ払っているか、わたしが寝ぼけているかの場合がほとんどだ。

電話は苦手。さよならをいうつもりで掛けても、声を聞くと頭が真っ白になって、言うつもりだったことをすべて忘れてしまうから。最後の一度だ、と悲壮な覚悟で発信を押しても、いつも最後には「また話せる?」と訊いてしまうから。