メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

「じろじろ」が見てる

職場で隣の席のAさんが、相談事を持ちかけてきた。「アンパンマンのシール売ってるところ、知らない?」と。一瞬意味が分からず、「アンパンマン?」と聞き返すと、彼は経緯を語りはじめた。

彼には1歳ちょっとになる息子さんがいるのだが、最近入浴を嫌がるようになったらしい。浴室の換気扇を指差し「じろじろがいる」と、怯え、泣き、手がつけられないそうだ。ちなみに「じろじろ」というのは息子さんの言葉で「字」を表すそうだが、その換気扇には何も書かれてはいない。「なにもないよ」と言い聞かせても一向に効き目がないので、Aさんはまず、駅で「ゆふいんの森号」のちらしを手に入れた。息子さんは電車が好きで、なかでもこの「ゆふいんの森号」が特にお気に入りなので、写真で換気扇を覆い隠そうとしたのだ。しかし結果は無惨。困ったAさんは、息子さんの一番のお気に入りであるアンパンマンに希望を託した。

運良く同僚のSさんがアンパンマン好きで、次の日、カレンダーについていた大きなステッカーを持ってきてくれた。(なぜかわたしにも、おむすびマンとカレーパンマンのステッカーをくれたので、バインダーに貼った)。

アンパンマン、効きました?」数日後訊ねると、Aさんは力なく首を振った。「結局、実家の風呂に行かせてる」。寒くなってきたのでお風呂が億劫で、「じろじろ」はお風呂を拒む方便だと思っていたのに、どうやら息子さんは本当に自宅の浴室が怖いらしい。

「子どもとねこには、見えないはずのものが見えるっていうしねえ」と、とりあえず盛り塩を勧めると、Aさんは「やめてよ!」と半分本気で怒っていた。