メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

思い出せない

近所で、立て続けにビルが取り壊されている。

新しいものに建て変わるふうだったり、パーキングになってしまったり。不思議なのは、いつも、取り壊されるまで気づかないこと。ぼんやり歩いていて、ふっと、今まであったはずのものがなくなっていることに気づく。建物がひしめくなかひと区画だけぽっかり空いた穴を見て、はじめて違和感を覚えるのだ。そして、そこにかつて(とはいってもほんの最近)なにがあったのかを、決して思い出すことができない。

人の顔と名前を覚えるのが病的に苦手で、夏休み明けに同級生の名前を思い出せないことすらあった。ひどい方向音痴で何度も行ったことがある場所にすら迷わずたどりつくことができない。

ずいぶん前、友人と通りがかりに入ったお店がとても素敵だった。それから銀座に行くたびにその店を探すのだけれど、ない。何度行ってもない。てっきりお店自体がなくなってしまったのだと諦めて二年ほど経った頃に、自分が覚えていた(思い込んでいた)のとはまったく違う通りにその店を見つけたときは驚いた。

そんなわたしだから、自分の記憶力はほとんど信用していないのだけれど、案外みんな、同じようなものなのかもしれない。Tさんと食事をした帰り、わたしの家からほんの30秒ほどの場所に、こつ然と空き地が姿を現した。ふたりして驚き「ここ、なにがあったんだっけ」と、顔を見合わせた。

結局いまだにふたりともそれを思い出すことができない。