メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

哀れなるものたち|アラスター・グレイ

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

なんだかんだと、保安検査場を抜けて待機、搭乗、離陸、着陸まで4時間以上かかってしまった。退屈した覚えも、やきもきした覚えもない。この本を読みはじめ、読み終わり、ひと息ついて顔を上げたらちょうど着陸態勢に入ったところだった。

まさしく奇譚。

著者であるグレイが、この書物の「編者」として序文を寄せる、というスタイルをとる作品だ。グレイが見つけたのは、19世紀スコットランドの公衆衛生官が自費出版した、彼と、妻と、親友を巡る信じがたい物語。そして彼の死後、妻がこの小説に寄せた、すべては作り事である、という批判めいた文章。グレイは膨大な資料をもとにそれらの真偽を検証し、小説の内容は真実であると確信する。

この本は、「グレイによる序文」「公衆衛生官による自伝」「妻による手紙」の3つからなる。もっとも分量のほとんどは「公衆衛生官による自伝」に裂かれており、この部分が実質のメインであることは間違いない。蘇生や移植を扱ったサスペンスは多くあるが、そのなかでも、ここで描かれる技術はひときわ悪魔的だ。そして蘇った女性の成長や冒険、彼女に翻弄される男たちの悲哀が、躍動感たっぷり描かれる。内容には悲劇的な部分が多いものの、悲壮感が薄いのは、ヒロインである女性ベラの奔放な性格描写によるのだろう。自由闊達すぎて、さすがにこれには、ほとんど感情移入の余地がない。彼女を巡る男たちにはまだ若干同情の余地があるけれど、これもまたどこか滑稽だ。シェイクスピアについてところどころで語られるけれど、確かになんというか、劇場的な小説だった。

夢中になって本を読む場合、どちらかといえば感情的な意味で没頭することが多いのだけれど、この本に対しては違っていたような気がする。笑ったり、胸を痛めたり、でもそれは移入ではなく、純然と「物語」としての楽しみ。客席から舞台を眺める快楽があった。こういうのも悪くない。