メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

わたしが怖がるのは

隣の係に誘っていただき飲み会。好きな人ばかりとこじんまりだったので、気も遣わず楽しい。思わず帰りにコンビニエンスストアで梅酒を買い足し、もう少し飲んで寝よう。

このあいだ、新しい部屋の内見に行ったときのこと。3件見たうちの3件目は、駅からは遠いけれど、間取りや広さについては一歩抜きん出ていた。新しく働く場所からも、おそらく遅くまで飲むことが多くなるであろういくつかの繁華街からも、割と気軽にタクシーを使える距離ということも良い。すっかり乗り気のわたしをよそに、広いバルコニーに向かう窓を開けて、仲介業者の店長さんはがっかりした声を上げた。

「あー、まずいですね、ここ。目の前、お墓ですよ」
わたしはすぐさま訊き返した。
「それ、いけないんですか?」

彼の言うことにはまず、不気味だということで、大抵の人はお墓や火葬場の近くには住みたがらない。お盆時期には若干騒がしい上に、線香の匂いが流れてくる可能性がある。反面、お墓がつぶされ別の建物が建つ可能性は低いので、日当たりや景観が悪くなることはまずない。部屋のグレードの割に若干家賃も安い。

怖くなんかない。土葬ならばちょっとくらい恐ろしい気分にもなるかもしれないけれど、焼かれているのだ。それに、お墓なんかより生きている人間の方がよっぽど怖い。

「たいていの女の子は、あなたみたいに強くないから」、店長さんはそう言った。

自分では、軟弱でぼろぼろの人間だと思っているのに、わたしはひとからはずいぶん強く見られる。多分それも間違ってはいなくて、結局のところわたしは、そのひとたちとは、怖がる対象が異なるのだろう。多分わたしが恐れるものを、彼らは何とも思わない。そして、もし万が一わたしが本当に強いのだとすれば、それは自分の中にひとつ、どうしようもない辛いことを持っているからだ。わたしは、ただひとりの、とてもとても好きだった人に、決して好きになってもらえなかった。このことに比べれば何もかもは取るにたらないことで、たいして辛くもないし怖くもない。