メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

そういう愛もある

「なんでもいいから、おすすめの本を貸して」というのは、ある意味愛の告白だよなあと思う。思った。

彼女は女性だし、愛の告白というのはちょっと語弊があるかもしれないけれど、「本を貸して」とか「CDを貸して」というのは、しかも明確なタイトルを求めてではなく、貸し手の選択に委ねてそういうことを頼むというのは、一歩深く相手の中に踏み込みたいという明確な、くすぐったい意図を感じてしまう。

「あなたとAさんが話しているのを聞いて、全然わかんなかったし、本は好きだけど、全然難しいのとか読めないんだけど、なんか、あなたの好きな本、おすすめの本を読んでみたい」

こんな風に本の貸し借りを求められるのははじめてだった。本を貸すのに、こんな気持ちになったことはない。わたしはすごく、嬉しかった。(ちなみにわたしと隣の席のAさんはよく他愛のない本の話をする。内容は村上春樹中島らもにはじまり、社会派ハードボイルドを経て、最近は本多勝一に着地しかかった)

帰宅して、悩む。

うっかり引っ越しを見越して、本を売ったり実家に送ったりしてしまった。手持ちの本は少なく、多くが外国のもので、しかも非現実的な内容のものばかりときた。日本の現代小説を好むという彼女に読んでもらうなら、何がふさわしいんだろうか。翻訳文体はなじまないかもしれない。古くさい言い回しや哲学的な言い回しが苦手だったらどうしよう。小さな字や、分厚い背表紙はどうだろう。不条理な展開や非現実的な設定はとっつきにくいかな。

とても誠実な彼女だから、ぜひとも彼女が楽しんで、読んで良かったと思える本を貸したいのだけど、考えれば考えるほどわからなくなってきてしまった。