メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

よそさまのにおい

朝、ドアを開けて一歩踏み出した瞬間に、足の裏が驚く。それではじめて気づいたのが、「前の部屋は、玄関の三和土と外とのあいだに段差があったんだなあ」ということ。数センチ低い地点への着地を、わたしの頭は一切意識していなかったけれど、足の裏はしっかりと覚えている。今の部屋は、玄関の中と外のあいだに段差がないから、まだ足は戸惑っている、というわけだ。

同様に帰宅してドアを開けた瞬間に感じる部屋のにおいは、まだどこかよそよそしい、よそさまの感じ。ひんやりと冷たくて、少しくらいは部屋のクリーニングに使った薬剤のにおいかなにかが残っているのだろうか。これにも一瞬、戸惑う。

よそさまのにおい。

昨年の冬、職場の同世代の女の子四人でよくごはんを食べに行っていた。男のひとを混ぜた飲み会では行けない、ちょっと洒落た高い店で夕食を食べる会。あるとき行ったフレンチレストランで、料理の上に見慣れない香草が乗って出てきた。皆、それをよけるべきか食べるべきか、迷った。すると友人のうちひとりがさっとそれを口に運ぶ。「どんな味?」と訊くと彼女が「なんか、よそさまの味がする」と言ったので、わたしたちは皆、笑った。

「よそさまの味」と言った彼女は、富士山の見える街へお嫁に行った。ひとりの女の子は赤ちゃんを産んでお休みをしている。もうひとりは、元の場所に残っている。わたしは、ここへやってきた。まだ、あのときからは一年ちょっとしか経っていない。