メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

パワー・ブック|ジャネット・ウィンターソン

パワー・ブック

パワー・ブック

昨日偶然見つけ、購入。作家は、一晩だけ別の人間になりたいという読者の希望を叶えるため、時代もシチュエーションもさまざまの成就しない愛の話を千夜一夜物語さながらに綴る。綴られた物語のあいだに、作家と読者の(これも、ネット上でのやりとりだったり実際に顔を合わせてのやりとりだったり)関わりや、作家の生い立ちがぽつりぽつりと挿入される。

ウィンターソンのキャリアの中では割と早い時期に書かれたものであるらしい。だからというわけではないけれど、荒っぽい印象を受ける。ひとつひとつの話は面白いのだけれど、描写も、並べかたもやや乱暴で、出来のいいエピソードとそうでないものの差が大きい。ウィンターソンの語り口に慣れていない人が最初にこの本を手に取ったら、面白さを感じる前に手放してしまうかもしれない。ひとつ目の、チューリップを運ぶ話は、結末、こんな落としかたをするんだ! と驚いたし、面白かった。あと、作家とその養父母のエピソードもよくできていたと思う。

あと本当に個人的な話なのだけれど、わざわざ訳者が(原書にはない)説教臭い序文をつけるのはあまり好きでない。多分ウィンターソン自身の文体がこういうものなのだろうし、もしかしたら岸本訳のウィンターソンを意識はしているのか、本文自体はそんなに引っかからなかったのだけど……でもなんか微妙な違和感が拭いきれない。なんだろう。後書きを見ても、この人は文学者というよりはジェンダー学の人なんだろうなあ。