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セックスの悲しみ|バリー・ユアグロー

セックスの哀しみ

セックスの哀しみ

超短編がたくさん入っているので、当然印象に残るものもあれば、そうでもないものもある。全体的に、恋に落ちたときのどうしようもなさを滑稽にデフォルメした、情けなくてかわいい男の人の話ばかりで、わたしはおおいに楽しんだ。

花の生える恋人の話がある。
キスをするたびに花が生える恋人。最初こそロマンティックな現象を楽しむふたりだが、じきそれが当たり前になり、飽き、やみくもに生える花は愛を交わすのにはわずらわしいものとなる。うっかり口づければ生えてくる花を、彼は鬱陶しく思い文句を言い、彼女は申し訳なさそうにそれを手折り、そのうち喧嘩になる。

花と恋人といえば大抵の人は、ボリス・ヴィアンの「日々の泡」胸から蓮の花を生やす死に行く少女クロエを思い出すんじゃないだろうか。あと、生えてくるわけではないけれど、死んだ妻が百年後に百合の花になり咲き誇るのは漱石の「夢十夜(の第一夜)」。恋人と花というのは儚く美しく描かれることが多いのに、ユアグローの手に掛かるとこの始末。

切実に読まなきゃと思ったきっかけは、先日のcoyote柴田元幸特集だった。寄稿したショート・ショートのなかでユアグローは自らを公衆の面前でくねくねと奇妙な踊りを踊る変人に例え、モト・シバタを、負けじとくねくね奇妙な踊りを踊りはじめる男に例えている。ああ、もう、まさしくそんな感じ。