メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

サンクチュアリ|ウィリアム・フォークナー

サンクチュアリ (新潮文庫)

サンクチュアリ (新潮文庫)

作者自身が「金のために書いた」と言ったとかなんとか。文学的評価は低く、過激な暴力描写で発売当時はセンセーショナルに受け止められたという作品だけれど、ホラー・スプラッタ作品の溢れる昨今、わたしにはそこまで残虐に思えるシーンは見当たらなかった。

禁酒法時代のアメリカ南部を舞台にしたノワール小説。森の奥で酒を密造する一団のもとに、若いカップルが迷い込んだことから殺人事件が起き、その真相を明らかにしようとする判事を含め、人間模様が描かれる。ノワールなので、ちんぴらはとことんちんぴらで、出てくる人間はほとんどろくでなし。酒を密造しているグループは柄の悪い犯罪者の群れだし、若いカップルにしても、男は学歴を鼻にかけたプライドばかりの高い腰抜けで、取り澄ました女の口癖は「あたしのパパは判事なのよ」。主要登場人物のなかで唯一まっとうな行動を見せる判事ベンボウにしたって、妻との私生活はめちゃくちゃだ。だからといって、そういった彼らの負の部分が親近感や同情を誘うようなものかといえば、特にそうでもない。駄目人間がぐちゃぐちゃやって、悪人は破滅し、それ以外は打ちのめされるというのが残念ながらこの小説の大筋だったりする。

と、身もふたもない書き方をしてはしまったけれど、個人的にはけっこう見どころがある作品で、とりわけ「男女の関わり」に視点を固定してみると面白い。酒の密売人グッドウィンと、彼のために身を落とした妻ルービー。そのルービーを救おうとするのが、「海老」が原因で妻を残し家を出てしまった判事ベンボウ。若いカップル・ガヴァンとテンプルの交際にはほとんどファッションとしての意味以外はない。そして、テンプルに対し非道な暴力をふるう悪党ポパイ。これらの関係をひとつひとつたどり、善悪だけでない感情の機微をなぞってみると、読後感はまた複雑なものとなる。レイプや暴力という題材が絡むのであまりこういうことを言ってはいけないのかもしれないけれど、やっぱり、ポパイはテンプルを愛していたんじゃないのかな。

ちなみにもうひとつの見どころはただ単純に「女は強い」という点。「八月の光」からも同じようなことを感じたのだけれど、ウーマンリブのような社会的、表層的なものではなく、もっと根源的な部分、性としての女の強さをひしひしと感じる小説だった。ルービーも強い。テンプルは恐ろしいほど強い。テンプルの預けられた娼館の女主人も強かった。それに比べたら、暴力をいくらふるったところで、身ぐるみ剥いでしまえば男性登場人物なんてみんな赤ちゃんみたいなもの。