メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ミスター・ヴァーティゴ|ポール・オースター

ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

セクシャルな部分を除けば、特に前半は児童小説といってもよさそうなストーリー。すらすら読みやすく、面白かったのに、読後、自分の中での落としどころがいまいちはっきりしない。オースターは3冊目だけども「最後の物たちの国で」「偶然の音楽」は、読み終えてすぐに小説そのものがすとんと自分の中に収まったのに、これはどうも違っている。

ごろつきのような生活を送るウォルト少年は、「13歳の誕生日までに空を飛べるようにしてやる」という不思議な男の弟子となる。不思議な力を持っているように見えるイェフーディ師匠、頭脳優秀なせむしの黒人イソップ、インディアンの末裔マザー・スーに、師匠のパトロンであり最愛の女性であるミセス・ウィザースプーンと、個性的で魅力的で、根本的には善意に満ちた人々に囲まれ、ウォルトは少しずつ成長してゆく。師匠の過酷な、虐待と言って間違いないような修行の後、ウォルトは空中浮遊をわがものとするのだが、そこからまた、悲劇や成功、没落が次々彼を襲う。

この小説はウォルト・ザ・ワンダーボーイの自伝という体裁をなしていて、実際少年期から老人に至るまでの彼の人生が時系列に沿って記されている内容に複雑な部分はない。しかし、とにかく焦点が合わせづらいのだ。そして、ものごとが解決しない。ウォルトによるある最大の復讐劇の成就一点を除けば、ものごとはただ、流れ、過ぎ去ってゆくのだ。彼らは、KKKに何もできない。成功はほとんどが一瞬のもので、あとにはなにも残らない。愛し合う人は結ばれず、もしくは失われ、それでも寂しさを埋めるために傍にいるひとと寄り添う。躍動的でユーモラスなエピソードに満ちている割に、なんだか虚しい。そして、最後の数行で語られるウォルトの独白、これがわたしをますます混乱させた。どういう意図で挿入された文章なのか、何度も読み返したけれどよくわからないままでいる。特別な人間などいないし、特別な人生などない。とりあえずそういう意味合いに落とし込もうとしたけれど、今もまだ、もぞもぞとした気分のまま。こういうのって、何年も経ってある日突然わかってしまったりするんだろうな。

しかし、1冊読むごとに嘆息を吐いてしまうのがオースターの人物造形の上手さ。主人公から脇役まで、端役の悪人すら魅力的。他の作品も少しずつ読み進めていく予定でいます。