メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

オテサーネク|ヤン・シュヴァンクマイエル

オテサーネク [DVD]

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「悦楽共犯者」を探しに行ったらVHSしかなかったので、代わりにこちらを。こういうときにはビデオデッキを始末してしまったことを悔やむ。

チェコの民話を題材にした映画。ある夫婦が、子宝に恵まれないことを悩んでいる。そんななか夫がふと掘り起こした、赤ん坊のようなかたちをした切り株を妻に見せたところから悲劇は始まる。妻はその切り株を本当の子どもだと信じ込み、周囲に自分が妊娠したのだと言いふらす。そして、妻が出産の振りをしたそのとき、切り株に魂が宿り、異形の、けれど本物の子どもになる。しかし、民話「オテサーネク」で、切り株の赤ん坊が食欲の権化となり、両親や周囲の動物、人間をどんどん食べてしまうように、オティークと名付けられた切り株も成長するにつれ人間を襲うようになる。

オティークが人間を襲う描写も確かにそれなりにグロテスクなのだけど、この映画の気持ち悪さの神髄はまた別の場所にある。執拗に挿入される登場人物の目のアップでは彼らの狂気が、口元のアップでは淫猥さとグロさがこれでもかと強調される。そして、オテサーネクが食欲の権化である以上食べ物の描写が多いのだが、これがどれも不味そうで気持ち悪い。汚い表現であることを承知の上で言うと、まるで吐瀉物のような粥やミルクが、ずるずると嫌らしい食べ方をされる場面が何度も繰り返される。小児性愛者の老人が少女の臀部を覗く描写も、ずいぶん気色の悪いものだ。生理的な嫌悪感をこれでもかとかりたてる映像は、近いものを挙げるならば「イレイザー・ヘッド」、リンチ作品の悪夢の部分だけを凝縮したような強烈さに満ちている。そして、「どうしても子どもが欲しかった女の悲劇」「どうしても弟が欲しかった少女の悲劇」という受け取り方はできず、ただただ登場人物の狂気だけが嫌な後味を伴って胸に残る。

同情や哀しみすら入り込む余地がないほどのグロテスク。だからこそ、食い入るように画面を見つめ続けてしまう。好きな映画監督はたくさんいるけれど、いい意味にしろ悪い意味にしろ、天才と思えるような人物はそう多くない。この映画を観終わってわたしは、ヤン・シュヴァンクマイエルはまぎれもない天才だと思った。