メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

変態村| ファブリス・ドゥ・ヴェルツ

変態村 [DVD]

変態村 [DVD]

スプラッター・ホラーの類いが観たくなり、深く考えず「死霊の盆踊り」みたいなもんかしらと思いレンタルしたら、B級ホラーよりはむしろ文芸に近い映画だったので驚いた。愛についての物語で、手法はゴシックホラー、冬の森の色彩を抑えた映像も美しかった。

老人ホームを回りコンサートをすることで生計を立てている売れない歌手マルク。クリスマスコンサートに向かう途中で車が故障してしまい、近くにあったペンションに一夜の宿を求める。元コメディアンだという主人バルテルは、アーティスト仲間だということでマルクを気に入り、歓待する。翌日、近所を散歩してくるというマルクに、「決して村に近づくな」というバルテル。理由を問うても答えようとしない彼に不審を抱きながらもマルクは頷く。しかし散歩中に偶然、村人であろう数名の男たちが、家畜小屋で子牛を犯している場面を目撃してしまう。車の修理が進まないため、もう一日ペンションにとどまることになったマルクに、その晩バルテルは、自分を捨てて去った元歌手である妻グロリアの話をきかせる。徐々に、バルテルや村に対して不安を感じはじめるマルクだが、逃げ出すには既に手遅れとなっていた。

マルクという主人公の男は、歌手という職業柄もあってか、他人の理想や幻想を投影される存在である。オープニングの老人ホームでも、老女や職員の女性から熱い求愛を受け、マルクはそれをはっきりと拒みもしないが受け入れもしない。コメンタリーによると、主人公を空虚な人間にしたのは狙ってのことであるらしい。だからこそ、バルテルや村人は空っぽのマルクに、「グロリア」という探し求める女性を投影してしまったのだろう。とはいえ、「グロリア」本人が実在したのか、本当に逃げ出したのか、は怪しいところだし、マルクが「2人目のグロリア」だったのか、彼以外にも同じような目にあった人間がいるのかは、映画の中では語られない。登場人物は、マルクだけが投影される側、他の人間はすべて、幻影を追い求める側の人間で、例えば登場する村人はすべて男ばかりで、彼らの妻や子などは一切描かれない。マルクというひとつのスクリーンに大勢の幻想や欲望、愛情と憎しみが重なって投影され、だからこそどんどん狂気が濃密になってゆく。

ショップではスプラッターの棚に置かれていたが、残虐描写はあまりなく、心理的なスリラー映画の側面が強い。割と淡々と進む前半から、後半ジェットコースターのように展開し、最後、緩やかな、哀しみとほんの少しの救いを残してのエンドロール。緩急の付け方もとても良かった。

DVDでは特典映像も充実していて、特に短篇「ワンダフル・ラブ」は、グロなんだけど、虚しくて笑えて、素晴らしかった。タイトルがアレなので借りるのにちょっとした勇気が必要かもしれませんが、スプラッター好きよりはむしろフランス映画好きの方にお勧めの一本です。