メトロガール

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ルナシー|ヤン・シュヴァンクマイエル

ヤン・シュヴァンクマイエル「ルナシー」 [DVD]

ヤン・シュヴァンクマイエル「ルナシー」 [DVD]

なぜこんなに毎日毎日DVDを観ているのかと言えば、ここしばらくは本当に、余計なことを考える暇をいっときも作りたくない状況にあるのだけどもその話はまたいずれ。

すっかり虜になってしまったヤン・シュヴァンクマイエル。これまでに観た「アリス」「オテサーネク」はそれでもまだベースが子ども向け小説と民話であるためか、小児性愛的な描写も、グロテスクな残酷描写も、童話寓話の域にとどまっていた。グリム童話レベルの残酷さというべきか、どこか牧歌的な空気は漂っている。その点この「ルナシー」は、エドガー・アラン・ポー(のおそらくは「早すぎた埋葬」)と、マルキ・ド・サド(のおそらくは「ソドム百二十日」)をモチーフにしているだけあって、遠慮も容赦もない仕上がりになっている。精神病院と狂人たち、埋葬ごっこに黒ミサと、終始エログロとナンセンスの応酬だ。とはいえストーリーとしては「オテサーネク」同様わかりやすいものであるので、単純なホラーとしても楽しめる映画かもしれない(勧める相手は選ぶけども)。筋としてのシュールさは「アリス」が一番だったように思う。

それにしたって、場面転換の合間にアイキャッチ的に挿入される不気味なアニメーションこそが、ヤンの真骨頂。肉が軽快にびちびちと跳ね回る、エグいことこの上ない人形劇が、しつこいほどに繰り返される。前日に観た「ワンダフル・ラブ」では、牛タンが気持ち悪さを象徴する小道具として使われていて、この「ルナシー」でも牛の舌が威勢良く動き回る。登場人物に、舌を切り取られた執事が出てくることもあいまってか、他の肉以上に観ていて気分が悪くなるそのビジュアルに、「切り取られた舌」というのは、視覚的にも観念的にも不快感と不安感をかき立てるギミックなのだなあと妙なところで感心してしまった。ちなみにびちびち動き回る肉のアニメーション、最初は吐き気を感じんばかりに眉をひそめて眺めていたのに、次第にユーモラスに、かわいらしく見えてくるから不思議だ。