メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

「ほら、怒られたじゃない」

友人のご機嫌伺いに葛西まで。東西線が地上に出た瞬間、海が見えるわけではないのに景色が、空気が完全に海辺のものになっている。彼女はあと2.5ヶ月後に赤ちゃんを産む予定。ずいぶんお腹が大きくなっていたけれど、ここからまだ倍になるのだという。「ご飯を食べると、大きくなった胃が邪魔なのか、ぎゅーって押し上げてくるんだよ」と言われて、感心して、納得する。狭い体の中で、赤ちゃんだって居場所は広い方が気持ちいいに決まっている。他の臓器と場所の取り合いだって、するよね、そりゃあ。

優しいんだけど、情緒的に脆かった彼女は、今の旦那さんと知り合ってからみるみる安定してきた。妊娠でひどく体調をくずして入院したり、精神的に不安定になったりする友人はとても多いので、彼女のことも心配していたのだけども、調子はとても良いらしく、安心する。むしろ、結婚して妊娠して、タフになったようにも見える。

今日、印象に残った話。

「このあいだ、銀行で椅子に座ってたら、近くにやんちゃな男の子がいたの。その子が騒いだりうろうろしたりするたび、母親が『やめなさい、怒られるわよ』って言うんだよね」と、お茶を飲みながら彼女は言った。この「怒られるわよ」という責任転嫁この上ない叱り方は、ずいぶん世の中で叩かれているのに一向に減る気配がない。電車の中でこういう母親を見かけるたびわたしも苦々しく思う。

やんちゃな男の子は、(妙な言い方であるにはしても一応は)たしなめられたにも関わらず、母親の言うことを聞かずに走り回っていた。そのうち何かにつまずいて、友人の脚に手が触れた。すると母親は、友人をちらりと見てから再度息子に「怒られるわよ」ときつい声。さすがに友人は黙っていられず、その母親に言った。「わたしは怒ったりしませんけど。第一、こういうときは、『怒るわよ』って言うべきじゃないんですか?」。すると母親は、男の子に向かって憎々しげにこう言い放ったのだという。

「ほら、怒られたじゃない」