メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

トウキョウソナタ|黒沢清

恵比寿で、黒沢清の新作「トウキョウソナタ」を観る。「回路」で成功してからは、ホラーとか超自然系映画のイメージが強いんだけど、昔はVシネやドタバタっぽいのも撮っていて、多彩なジャンル性を迷いなく同じ鍋に入れてしまうのが黒沢映画の凄いところだよなあと、個人的には思っている。

東京。坂の上の騒音激しい線路沿い、小さな一戸建てに住む四人家族。権威主義の父親は、長年勤めた会社をリストラされたことを家族に言えず、毎朝出勤するふりを続ける。長男はあまり家に居着かない、勉強をしている様子も薄い大学生。次男は繊細なタイプの小学生で、クラス担任とのあいだにトラブルを抱える。そして母親は、バラバラの家族の中で糸が切れたような気持ちを抱えながら、なんとか「母親」としての役割を演じている。

「家族の快復」をテーマとした社会派映画といってもおかしくないネタなんだけど、やっぱりなんか、変なんだよね、黒沢映画。嘘っぽいリアリティ、ファンタジーとしてのリアリティで、東京なんだけど、なんか東京じゃない。炊き出しの場面とか、ハローワークの場面、留置所、学校や面接のシーンやショッピングモールでの着替えシーンあたりも、ありそうに見えてものすごく嘘っぽい。本当っぽいなかに少しずつファンタジーを混ぜていって、そこにもって「日本人の米軍入隊」という大規模な嘘っぽさ、さらに役所広司投入で一気に現実を逸脱してしまう。キャラクターや心情、展開としてはわかりやすく丁寧に作られているのに、シチュエーションに思いっきり嘘っぽさを持ってくる、そこが良かった。終盤の海のシーンなんかは多分評価が割れるくだりなんだろうけど、もうあれは、現世じゃない。あの人は死神で、彼女は一瞬あの世に行っている。このストーリーであそこにふっと冥土を持って来れるのは、やっぱり黒沢清の凄さだと思う。

地味なところだと、唯一家族四人が揃って夕食を囲んだシーンが印象深い。全員椅子に座って、さあ食べ始めようというところで、父親が「ビール貰おうかな」と言う。冷蔵庫からビールを持って来てグラスに注ぐ。家族、黙って見ている。注いだビールを飲んで「ああ、うまいなあ」と言う。家族、黙って見ている。さらにビールをグラスに注ぎ、飲む。それからようやく「いただきます」と言う。家族、「いただきます」と続け、食事を始める。この場面がかなり長く、しかも強い負の空気が漂っている。父親が自分一人ビールを飲みながら、素知らぬ顔で家族に「待て」をさせているという地味な横暴さはかなり嫌な感じだ。ほかにも、家族を怒鳴りつけたりといったシーンはたくさんあるのに、この家庭での父親の立ち位置、存在を一番よく表しているのはこのシーンだった。

今回の作品は、非ホラーで、「家族の死と再生」が明確に描かれ、オーソドックスに見えなくもない展開をするので、「アカルイミライ」と並んで、間口の広い映画に仕上がっているのかな。キャラクターや主題については、まったく迷う余地のないわかりやすい映画。なのにやっぱり何か変で、ずれてて、これが「黒沢清」なんだなあと思ってしまった。ちなみに役所広司は、黒沢映画でクレイジーになっているときが一番素敵だし、楽しそうに見える。

トウキョウソナタ [DVD]

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