メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ピアノチューナー・アースクエイク|ブラザーズ・クエイ

造形アニメーションの重鎮、クエイ兄弟の2005年作品で日本では初公開。

美しいオペラシンガー、マルヴィーナは指揮者アドルフォとの結婚前夜に開かれたリサイタル中に科学者ドロス博士にさらわれ、魂を抜かれ山奥の彼の屋敷に幽閉される。ドロス博士の目的は、マルヴィーナの歌声を永遠に自分のものとすること。そして、彼の作り上げた7つの機械からなる「自動演奏装置」を、マルヴィーナを加えることにより完全な物として、博士の音楽を理解しようとしなかった文化人たちへの復讐ともいえるリサイタルをおこなうことだった。そんななか「自動演奏装置」のチューニングのために屋敷に招かれた、天才ピアノ調律師フェリスベルトは、マルヴィーナと出会い、惹かれてゆくうちに、彼女を救い出そうと考えはじめる。

思ったよりずいぶんパペットが控えめで、完全な人形アニメと言えるのは、博士の作った機械の中くらいのもの。もうすこしアニメが観たかったなーというのが本音ではありつつ、「自動演奏装置」=「ヴィラ・アスセナ」、「人形」=「人々」ともいえる鏡像感から得られる気持ち悪さと陶酔はずいぶんなものだった。筋としてはわかりにくい物ではないのだけども、アート作品にありがちなこととして、細部の説明が省かれているので、博士がマルヴィーナに執着することは作中描写で納得できるものの、文化人たちにかつて彼の音楽が否定された、ということについては博士の口から語られる以外には特段なにもない。そのため博士の狂気の動機には若干弱さを感じてしまった。とはいえ愛や芸術に取り憑かれた人間の狂気を主題に据えている作品なので、このあたりの整合性はあまり重要でないのかもしれない。

カラー作品ながら、画面は暗くて色彩感は抑えめ。真っ暗い闇と白い光との陰影がとてもきれいだった。森や建物の、造形物としての美しさと、広がる海の対比も良いし、6人の庭師たちの人形のような動きも、怖くて滑稽。実写多めの作品だったのだけども、人間が人形っぽく演出されているので、やっぱりこれはアニメーション作家の映画なんだなあと思ってしまった。