メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

その土曜日、7時58分|シドニー・ルメット

トウキョウソナタ」を恵比寿で観たときに予告編が流れて、映像と原題「Before the Devil Knows You're Dead」に惹かれた。金策に困った兄(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、同じく離婚後の慰謝料の支払いに悩む弟(イーサン・ホーク)に犯罪を持ちかける。彼らの父母が経営する宝石店に押し入り、金品を盗もうというのだ。店の内部のことはよく知っているし、その時間の店番は雇われた老女ひとり。店番を傷つけることはしないし、店の被害は保険で補填される「だれも傷つかない強盗」。しかし、いざ実行してみると、計算違いの出来事がおこってしまう。

スピード感があり、出だしからの派手な展開に、クライムムービーをイメージしていたのだけども、全体を通すとほとんど古典悲劇といっていいような、ファミリーアフェアー、父と息子/兄と弟/夫と妻の物語だった。主な出来事をかたる本骨があり、それにからませるかたちでそれぞれの人物にスポットをあてた時間軸が互い違いに挿入されていくという手法は、少しずつ彼らの軋轢をあぶりだしていくにも、映画としての緊張感を高めるにも効果的だったのではないかと思う。演出がうまいというのもあるんだけど、登場人物がみな台詞以外のところでの演技がうまくて、ささいな動き表情間の取り方で、背後にある感情や関係性をうまく浮き上がらせる。やけくそになった兄アンディが、部屋をめちゃくちゃにする場面があるのだけど、そこで力任せに破壊するのではなく、のろのろとベッドからシーツを引きはがし、鏡台のものを床におとす。テーブルの上の小石のオブジェを一気にぶちまけるのではなく、ばらばらと落としてゆき、からっぽになったガラス容器は割らずに力なく元の場所に置く。行動だけを見ると最悪なアンディなんだけど、そういう細かなシーンで、彼の抱えてきたものや内面が垣間見えてくる。

監督は「12人の怒れる男」のシドニー・ルメット。年齢云々でないと頭ではわかっていても、やはり、85にもなろうかという監督がこういう作品を撮ってしまうということには、驚いたし興奮した。構図、演出、カット割り、音楽の使い方にいたるまですごくエキサイティングな映画で、出演陣の演技も素晴らしい。上映館も少なくて、あまり話題にもなっていないのはもったいない。