メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

本が読めない

秋になるあたりから、本が、とりわけ小説が読めなくなってしまった。短期的な集中力の途切れはしばしばあるものの、思いのほか長引く症状に、もしやこれは感冒でなく死に至る病なのではないかと内心恐れおののいていた。

エッセイで少しずつリハビリをして、柴田訳「ナイン・ストーリーズ」を少しずつ少しずつなんとか読み切ったころに、アーヴィング「サーカスの息子」が文庫落ちしてきた。アーヴィング。なんの根拠もなく彼は「アメリカの良心」みたいな小説を書くんだろうと遠ざけていて、一冊も読んだことはなかった。「サイダーハウス・ルール」の映画は劇場で観たけど、可もなく不可もなく、といったところだった。でも、タイトルがいいし、帯もいい感じだし、岸本さんの訳文なら頭に入ってきてくれるんじゃないかと思った。神戸に出張に行くときに、上巻だけ、買ってみた。

結局神戸から戻るまでには100ページしか進まなかった。それからもだらだらと、通勤電車の中で開いてみたり、はたまた閉じて眠ってみたりと、信じがたいほどのスローペースで読み続けた。すると、上巻の2/3に差し掛かるあたりで、急に、すとんと足元が抜けた。文章が頭に入ってくるのではなく、わたしが物語の中にすっぽり落ち込んでしまうあの感じが、久々に戻ってきた。そして、あっという間に上巻を読み終わり、今日は仕事中から、ことあるごとに物語の続きのことが頭をかすめ、残業もそこそこに職場を出ると、いそいそと本屋に向かった。

面白い小説を読んでいる、ということは当然幸せなんだけど、同じくらい今は「小説が読める」ということがすごく幸せで、わたしはその至福を噛み締めながら今週末は「サーカスの息子」下巻を読むのです。