メトロガール

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シュレディンガーの哲学する猫

シュレディンガーの哲学する猫 (中公文庫)

シュレディンガーの哲学する猫 (中公文庫)

女性作家が「シュレディンガーの猫」を通して哲学に触れる小説部分に、その章で取り上げられる哲学者の思想に関する具体的な解説が入れ子になっているスタイルの、一般向け哲学教養本。解説部分は倫理学の入門書の孫引きのような感じで、「だれにでもわかる」ための特別な仕掛けがあるわけではない。小説部分は、あまり言い切りたくないけども、わたしはこれは、良くないと思った。あまりに一元的な「愚」として描かれた隣人の妻にしろ、ほとんど名指しに近い形で実在の大学教授をこきおろす書きぶりにしろ、環境問題に関する視野の狭い安易な科学批判にしろ、「他人の思想を紹介する本」であるにも関わらず、作者の立ち位置が中立から外れすぎている。こういうのはフェアじゃないし、こういうやりかたで知識を正しく伝達することが出来るような気はしない。

これだけの人数の哲学者の思想について一冊でどうにかしよう、という考えで手を取ったわたしが間違っていたしあさましかったのだ。それにしても哲学理論を簡単な言葉に噛み砕くのは難しいことなのだろう。同じような「簡単な一般向け哲学書」がわかりやすかったことも面白かったこともない。文章自体が簡単でするする入ってきても、最終的にはわかったようなわからないような、詭弁とペテンにやられたような、釈然としない気持ちが残る。わたしの場合むしろこういうのは、理論でなく感覚に訴えられたほうが、ちゃんと伝わってくるようだ。例えばこの本のサン・デクジュペリの章を読むよりは「星の王子様」を読んだ方が、サルトルの章を読むよりは「嘔吐」なり「水いらず」なり読んだ方がよっぽど、そこに込められた思想に近づけた気がする。