メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ロルナの祈り

アルバニアからやってきたロルナは、ベルギー国籍を得るため、麻薬中毒者のベルギー人青年クローディーに金を払い偽装結婚をしている。ロルナの夢は、お金を貯めてから故郷の恋人を呼び寄せ、ふたりでベルギーに店を持つこと。一方のクローディーは、偽装結婚だと知りながらもロルナを心の支えに麻薬と手を切ろうとしている。しかし国籍を取得した今、ロルナはクローディーと離婚することを望んでいる。ブローカーから、今度はロルナが国籍を売る側としてロシア人と偽装結婚する商売を持ちかけられているのだ。

疾走、というのがわたしがタルデンヌ兄弟の映画に抱くイメージ。仏頂面で、町を、森を走るロゼッタ。売り払った子供をとりかえすため、駆け回るブリュノ。そして、ロルナも走る。ベルギーの曇った空の下を、悲愴な顔でひたすら走る。「もっと走らなくちゃ。少しでも離れた方が、安全だから」。
「失業問題」「少年犯罪」など描いてきた監督だが、今回も「移民問題」「麻薬問題」がベース。しかし、それらの問題の中で無軌道にもがく若者のすがたを手持ちカメラで追っていた今までの作品と「ロルナの祈り」は少し違っていて、物語の後半はロルナの情念のようなものがひたすらあふれる。現実的な問題を超えて、ひとりの女性の愛というものに凝縮されていく物語は、哀しみ以上にその強さが印象に残った。

ロゼッタ同様、仏頂面でスタイルも良くないヒロインだからこそやたらリアルに感じる。めずらしく登場人物が多めだったのだけども、ほかの俳優もタルデンヌ作品の常連がメイン。「ある子供」のブリュノに続き、今回麻薬中毒者のクローディーを演じたジェレミー・レニエ(オゾンの「クリミナル・ラヴァーズ」も大好き!)は、年齢を重ねても、というか年齢を重ねるにつれてますますイノセンスを増してゆく、不思議ですごく魅力的な俳優だと思う。これからも彼の出演作には注意していようと強く思った。

テレラマというフランスの雑誌のレビューが、印象的。自転車を買ったクローディーに、ロルナがはじめて笑顔でじゃれるシーンは、スクリーンごときらきらしてた。

ロルナは、麻薬を断とうとするクローディーの苦しみに無関心でいることができない。この映画の中でとりわけ感動的なのは、金で回る世の中、そして人間性を失わせる多くのまやかしの背後で、ロルナからの同情と愛情を手に入れるクローディーの姿だ。