メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

アンチ物語的小説2冊

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

こっちが頭を使う以前に、本文内に何が何のメタファーだというようなことを大仰に書いてあって、わからないことを気にするときりがないので、割り切って笑いながら読んだ。野球がわからなくても楽しめると書いてあるんだから、逆にライプニッツ資本論がわからなくても楽しめるに決まっている。高橋さんの小説には独特なセンチメンタリズムがあって、それにはまってしまうと笑うような場面でもなにやらしんみりしてしまったりと、変な読み方をしがちになってしまう。その点これは、導入から笑えたので良かった。ネーミングの語感として「中島みゆきソングブック/さようなら、ギャングたち」にはどことなく切実さを感じるのだけど、「365日のおかず大百科/太宰治週間」は素直に笑いとして受け止めることができるので、言葉って不思議だと思う。謎の叔父さんのくだり、「早駆けのニワトリ」のくだり、「神様が日本野球を創造する」くだりがとても面白かった。そして、名前を使われた実在の野球関係者は当時怒らなかったのだろうかと一寸気になった。

驚愕の曠野 (河出文庫―BUNGEI Collection)

驚愕の曠野 (河出文庫―BUNGEI Collection)

すごく久しぶりに筒井御大の作品を読んだ。断筆してたくせに、総作品数があまりに膨大で、読んでも読んでも残りが減らないのでくじけてしまっていたのだ。仏教っぽくもあり、水滸伝みたいな感じもあり、残酷なファンタジーといってもいいだろうし、構造としてはメタフィクションどころかクラインの壷みたいな無限地獄形式になっているわけのわからない小説。なんせ、いきなり話は「332巻」からはじまり、途中から別の小説内小説がはじまり、さらに破られた書物かなにかの断片がばらばらに現れる。構造の複雑さだけでなく小説内の世界も、輪廻転生のアレみたいに、無限ともいえる階層構造になっているのだから、筋道立てて読んでいこうとしたところで土台無理なのである。こう書くと物語としては破綻しているように聞こえるだろうし、実際形式としては破綻しているのかもしれないんだけど、なぜか「お話」としての力強さを感じたし、ものすごく面白くて取り憑かれたように読み切ってしまった。あと、黒田征太郎さんの挿画がすばらしすぎて、これが文庫サイズでしか見られないのはすごく残念。大きいサイズで、こんな見開きじゃなく一枚紙で見たい!

立て続けに、アンチ物語的な小説を2冊読んだわけだけど、小説作品においてそれが「物語」か「アンチ物語」かというのは、音楽でいう美メロ歌ものと、ドラムンベースのインストを比べるようなもので、どっちが優れているかというような尺度で比較することはそぐわない。わたしは、アンチ物語的な小説を読むときは、できるだけ考えすぎないようにしていて、変に利口ぶって何が何のメタファーだとか気にし始めたら負けだと思っている。で、こういう性格なのでけっこうな割合で負ける。勝ち負けを別にしても、頭を使わず語感とイマジネーションへのアンテナを最大限に研ぎすますというのは非常なエネルギーを必要とする。ある読み方を心がけ、頑張っているという時点で自分はまだまだだと思う。