メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

金子と矢川

西ひがし (中公文庫)

西ひがし (中公文庫)

先週読了。東南アジアから、日本に戻るまで。妻をヨーロッパに残しているのに、金策に切実さが生まれず、好奇心に駆られては現地の娼婦に金をむしり取られる金子はどこまでも詩人であり男である。そして、偶然出会った財閥の息子に気に入られ、彼との関係を手みやげに金子の目の前に現れる森三千代はどこまでも作家であり女である。旅行記であると同時に魂の記録でもあった三部作。非常に濃密な読書体験だった。キラキラしたものとは違う、ある種の美しさを堪能できたと思う。

そして、男と女、夫婦って複雑なものだと思いながら続けて矢川澄子を手に取ることに……。

兎とよばれた女 (ちくま文庫)

兎とよばれた女 (ちくま文庫)

矢川澄子さんの訳書は多く読んでいたものの、オリジナルははじめて。私小説を実験的なファンタジーの枠にうつし込むという意味で「さようなら、ギャングたち」を思い浮かべたのだけども、こちらは小説としてはあまり成功しているように思えない。部分部分にある美しさは、小説としての美しさではなく、矢川さんが愛する男性に向けた心そのものの美しさでしかない。要するに、体験や思想が小説に昇華できてはいないような印象を受けた。実際、行き場のない愛情を昇華できなかったからこそ、この小説を書いた数十年後に矢川さんは自ら命を絶ってしまったのだろうか。

こんな風に、たったひとりのひとへの叶わなかった(というべきか破れてしまったというべきか)思いだけを抱いて生涯をすごすというのは、哀れまれるべき不幸だろうか。それほどの気持ちを抱ける相手に出会えた、という意味では幸福でもあるのだろうか。