メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

それは聞かないで

「好きな本、音楽、映画」を問われるのがすごく苦手だ。これが「好きな食べ物」だとか「好きな色」ならなんてことないのに、本や音楽や映画だと困ってしまうのは、わたしがそれらに強いこだわりを持っているからなのかもしれない。それらの質問を受けると、口ごもり、言いよどんでから、「いろいろ……」と逃げてしまうことが多い。休みの日何してるの、趣味は何、などと訊かれたときに「読書、音楽、映画」あたりの答えを選ぶと漏れなく気まずいやり取りに突入してしまうので、最近は「趣味は散歩」で通すことにしている。

なぜ「好きな本、音楽、映画」について訊かれるのが苦手なのか、自分なりに考えてみると、まずは「知らない」と言われたときに圧倒的に場がしらけてしまうことだ。あの会話が止まる感じが、わたしはすごく苦手だ。逆に「わたしも好きなんだ」と言われて、その「好き」のベクトルやテンションが食い違っていたとき、これもなんだか気まずい。また、星の数ほどある好きなもののなかで、瞬時に「とりわけ好きな」いくつかを選ぶこと自体が至難の業で、その場で挙げたタイトルで、わたし自身が何らかのレッテルを貼られるのではないかと思うとなおさらだ。とんでもない自意識過剰。別にその場で挙げた映画や本の題名で、誰もわたしを値踏みするはずなんてないのに、神経質にそんなことを気にしてしまうのはわたし自身が他人を、その人の読むものや聴くもの、観るもので判断しているからなのかもしれない。くだらない。

もう数年前のことになるが、ハロープロジェクトのアイドルに異常な熱意を持つTさん(女性)が、一切アイドルに関心のないFさん(男性)に、「今日から毎日一人ずつモーニング娘。のメンバーの名前を教えるんで。一日一人、覚えてください」と脈絡もなく切り出した。同じ申し出にわたしは「やだよ」と即答し、別の同僚も、そんな無意味なことつきあってらんないよ、と一刀両断していた。しかし、Fさんは顔色ひとつ変えず「わかりました。代わりに僕は、毎日一人ずつバスプロの名前を教えるので、Tさん、ちゃんと覚えてください」と答えた。TさんもFさんもかっこいいと思いながら、わたしは自分の好きなものをいまだにこそこそと胸の中、手のひらの中、大事に隠し持つばかり。

父親くらいの年齢の上司から「どんな本を読むの」と訊かれ、書類の内容や仕事の進捗について訊かれるよりもよっぽど汗をかいた。本当は、もっと、ちゃんと、屈託なく、好きなものは好きだと言えるようになりたい。「知らない」と言われても気にせずに、好きなところ、素敵なところを語れるようになりたい。なりたいな。