メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

スラムドッグ・ミリオネア|ダニー・ボイル

インドの人気クイズ番組(日本では「クイズ$ミリオネア」というタイトルで放映されていたものと同じ形式)に参加したスラム出身の青年ジャマールは、正解を連発し、あっというまに1000万ルピーの権利を得る。医者や学者ですら勝ち進めないクイズを、まともな教育すら受けていない若者が攻略できるはずがないと、彼は不正の疑いをかけられ警察に連行される。しかし、取り調べを受ける中で、クイズの答えは、ジャマールが今まで経験した過酷な出来事のなかに隠されていたのだということがわかっていく。という筋。

わたしの思う良い映画には純粋に「出来の良い映画」だと感じたものと、多少あらはあっても「いとおしい映画」の二種類があるんだけど、これはその両方を兼ね備えたすばらしい映画だった。スタイリッシュなコマ割り、色彩感、音楽の使い方は舞台をインドに移しても健在で、それをどちらかといえばベタなストーリーに乗せて、ときにインド映画へのオマージュも取り混ぜているのも面白い。涙腺がめきめき弱っているわたしは、こういう映画を観ると、ストーリーへの感動とかそういう次元ではなく、映画そのものの素晴らしさにちょっと泣いてしまうのだ。テンポの良さと、陰惨なストーリーをからっとさせるユーモアセンスなど、ブラジルのスラムを生きる少年たちの姿を描いた「シティ・オブ・ゴッド」とちょっと重なる。

インドでは、「インドの負の部分のみを誇張しすぎている」と問題視されたようだが、作りに悪意は感じられないし、社会派ドキュメントでもないこの映画では、等身大の現実を描くことよりは映画的な演出に重きを置かれることは当然だ。それにまず第一、確かにスラムの貧しい暮らしにしろ、宗教対立にしろ、故意に身体に障害を負わせた子どもたちに物乞いをさせるギャングにしろ、それらは無から作り出されたフィクションではなく、デフォルメはされているにしろ、インドの現実でもある。

この映画を、かつてインドの宗主国だったイギリス人の映画監督が撮るということには、なんだか感じ入るものがある。子ども時代のジャマールがタージマハルのガイドをしていたとき、ふとしたミスから大人に暴力を振るわれるシーンがある。いい大人が子どもを殴り蹴る場面に驚き止めに入ったアメリカ人夫婦に、ジャマールは言う。「これがインドの真実の姿です」。すると、アメリカ人夫婦の妻は「わたしは、アメリカの真実の姿を見せてあげるわ!」そして彼女は夫に向かい言い放つのだ「あなた、お金!」。彼女は100ドル札をジャマールに握らせる。この場面はすごく良かった。

基本的には主人公ジャマールと、彼の初恋の少女ラティカとのベタな話が中心にあって、これはストレートな描き方をされていたからこそよかったんだと思う。無駄にキラキラした効果が入ってスローモーションになるシーンや、クレジットのところでインド映画ばりのダンスシーンに突入するのも楽しかった。いろんな要素を、バランスよく違和感なく詰め込んで「楽しい」映画に仕上げるというのは案外難しいことなんじゃないかと思うのだけども、そういう意味でもうまくいっていて、なんていうか、重い内容であってもスピード感と爽快さを与えてしまう能力や、本作や「トレインスポッティング」のような作品からゾンビ映画まで撮ってしまい、それがすべて「ダニー・ボイル」っぽく仕上がってしまう、レンジのが広いのにぶれない感じとか、すごいなあ。