メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

Xのアーチ|スティーヴ・エリクソン

Xのアーチ

Xのアーチ

一年以上をかけようやく「黒い時計の旅」の衝撃がやわらいできたので、エリクソン2冊目。これもすごかった!

おおざっぱな言い方をすれば「歴史改変もののメタフィクション」で、トマス・ジェファソンとその愛人であったと言われる黒人奴隷サリー・ヘミングスの絶望的な愛が、その情念の強さによりいくつもの物語を紡ぎだす。奴隷解放を唱いながら、サリーを所有し隷属させることに執着するトマス。そして、彼の手を離れフランスの地で自由になるか、彼とともにアメリカに戻り奴隷の身に甘んじるかの選択を迫られるサリー。「愛と隷属を選んだ世界」「自由を選んだ世界」という単純な二元構造ではなく、引き裂かれた情念の亡霊とでもいえそうな、「永劫都市」に、ベルリンの壁崩壊後のドイツ〜アメリカ、次々と現れる一見ばらばらな世界が絡み合い、最後にはそのすべてがひとつに収束してゆく流れには完全に飲み込まれ、圧倒された。

幻視性、といった場合、古いものだと完全にイマジネーション・想像力に裏打ちされたもの、現代小説だと、深層心理や社会的なあれこれと関係した内省的なものを思い浮かべることが多い。どちらからもあまり生々しさは感じないけれど、エリクソンの幻視は、強い愛・情念によって世界がひずみ生まれるという意味では、とんでもなく原始的で野蛮なものだ。わたしの好む「土のにおい」が、エリクソンの小説にはある。