メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

大人になれば

わたしは「早く大人になりたい」とは一切思わない子どもだった。多分、末っ子でちやほやされて育ったからなのだろう、子どもでいることはひたすら心地よかった。もう少し大きくなってからは、子どもでいる不自由さは感じはじめたものの、今でいう中二病というやつをこじらせていたので、大人になることを拒んだ挙句、就職が二年遅れた。

仕事に就くことに激しい拒否感、恐怖を抱いていた理由は、恥をしのんでここに書いてしまうと、社会で何らかの役割を担うことによって、自分の中のイノセンスが失われてしまうのだと信じていたからだ。二十歳過ぎて、大学も卒業してなお、わたしはそんなことを本気で考えていたのだ。イノセンスなんてものが本当に自分の中にあったのか、そもそもイノセンスとはなんなのか、よしんばそんなものがあったとして、仕事するくらいで失われるような柔なものに何の意味があるのか、今なら笑い飛ばせるけれど、当時はけっこう深刻な気持ちでいた。本人なりに。

先日紹介した、松尾スズキさんの「12歳の大人計画」という本。これはNHKの番組「課外授業、ようこそ先輩」で、松尾さんが母校の小学校を訪れ、2日間にわたって「大人とはなにか」について授業を行った、その内容を収めた本だった。この本の冒頭で松尾さんは小学校6年生の子どもたちに、「君たちは早く大人になりたいか」と問いかける。そして、誰も手を挙げないことにショックを受ける。松尾さん本人は、子どもが嫌いで、幼い頃、早く大人になりたくてしかたなかった。だから、子どもたちの反応が意外だったのである。そして、言う。

先生は最近、世の中のすべてが子供に合わせてできているような気がして仕方がない。今の日本の世の中っていうのが、妙に子供目線になってるというか。ポケモンの飛行機とかあるけど、俺あんなの乗りたくねぇもん。
(中略)
先生が12歳くらいの頃って、世の中がそういう大人のムードに合わせていて、割に子供は今、先生が黒板に描いたみたいに不完全な存在だった。そのころ、世の中は子供にとって住みにくい不自由な世界で、だから子供は早く大人になりたいなっていう気持ちがあったわけ。

そういえば、確か「メロン牧場」で卓球と瀧(と山崎洋一郎)も大人と子どもについて話していたような気がする。大人最高、大人楽しい。子供なんかあいつらバカだぜ、ぐるぐるまわったり、両手広げてブーンとかやったり、シラフじゃねえよな、みたいなことを。

あれだけ大人になることが嫌だったわたしも、(一応経済的にも精神的にもある程度自立できているという点において)大人になってしまえば、子どもの不自由な面のほうが目について、あの頃に戻りたいなんてことはちらりとも思わなくなってしまった。夜更かししても、好きなものばかり食べても、本やCDを大量に買い込んでも、外泊しても誰にも叱られない。門限なんかないので、駅の改札で名残惜しそうに延々といちゃいちゃする必要もない。仕事の重圧なんて、まったく先の見えない受験勉強のプレッシャーに比べたら取るにたりないものだし、自分で稼いだお金は気兼ねなく好きなように使える。でもこれが、子どものままで好きなことばかりやっていてもよくて、勉強なんかしなくても平気で、叱られもしないとすれば、どうだろう、わたしは大人でいるほうが楽しいと思うんだろうか? でもそんな子ども、ろくな奴じゃあないと苦々しい気持ちになってしまうのは、わたしが大人だからなんだろうか?

岡本敏子さんの本を読み返していて、登校拒否児とのやりとりについて語るこんな一節があった。多分いろいろと受け止め方はあるだろうし、うなずくひともいれば、首を傾げる人もいるんだろうけど、わたしはこのフレーズにがつんとやられてしまった。子ども云々ではなく、現在の自分自身にあてはめても思い当たるところは多い。

その中にね、「僕たちは学校に行かないだけなんだ。別に学校が悪いって言ってるわけじゃないんだ」って言う子がいたの。それを聞いて、わたくしは怒っちゃったの。「何言ってんの。あなたは行きたくないんでしょ? それはもう、それだけで学校制度に対する反対なのよ。なぜ行かないのか、何が嫌なのか、あなたはちゃんと自分でわかってるはずよ。それを自分で言葉にしなさい」って真剣に突きつけたわ。
いまは、教育者とか児童心理学者のお偉い先生方やカウンセラーなんかが、「君たちの言うことはよくわかるよ。君たちは悪くないよ、社会が悪いんだ」なんて頭を撫でるようなことばっかり言ってるでしょう。だからダメなのよ。だって、今は子どもだから許されてるかもしれないけど、そんなこと、甘えよ。逃げてれば一生通ると思ったら大間違いでしょう。いずれは社会に出なければならないんだから、そのときには最低限、「自分はこう思う」ってことをきちんと言える人になってほしいのよ。

わたしは、自分の大人になりきれない部分や、大人になりすぎてしまった部分を持て余しながらも、けっこう「大人」というものを気に入っている。でも、別に子どもが大人に憧れる必要もなくて、子どもは子どもである自分を、大人は大人である自分を気に入っていれば、それが一番幸せなのかなーと思ったりもする。

電気グルーヴのメロン牧場―花嫁は死神

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恋愛芸術家

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