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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

おじいちゃんの「エロ本」

本のはなし よしなし

何枚か写真も載せたが、先日田舎に行った際、祖父の遺品である書棚を漁った。そこには主に昭和20〜40年代に、薄給の中からこっそり購入し、祖母にばれないように職員室に隠してあった本の数々がおさめられている。ちなみに、終業式になると母と叔父(祖父の勤務先の生徒)が他の教師に呼び出され「おい、父ちゃんの本いいかげん持って帰ってやれ」と言われることから、結局のところ秘密の蔵書はばれてしまうのが定石だったのだという。その本棚の中身は、かつて一世を風靡した「全集本」がほとんどで、美術、歴史、文学に関係するものが目につく。他にも必死で勉強したのか赤いボールペンでたくさんの書き込みの残された英文法書や、海外文学などの文庫も多数並んでいるが、痛みが激しく、ページをめくると粉々にくだけてしまいそう。太平洋戦争やえん罪事件に関する書籍がところどころにあるのも、日教組だった祖父の蔵書としてはいかにもだなあ、と今となっては思う。

わたしが、浮世絵の本を見ていると、寄ってきた姉が思い出したように言った。「そういえばおじいちゃん、昔のエロ本隠してたのよ」。

「ええええ! 見たい!」思わず即答したのは、真面目を絵に描いたような祖父とエロ本というのがまったく結びつかなかったからでもあるし、単純に「昔のエロ本」というものに興味があったためでもある。古本屋で微妙なプレミアのついているレトロなグラビア誌、もしくはピンク映画の看板絵のようなものをイメージして、わたしは姉をせかした。祖父の名誉を慮った姉は「昔のエロ本」を、ひとにばれないよう書棚の下の方、扉付きの一角のさらに奥にしまいこんだのだという。どこだっけ、と棚の奥を探っていた姉はしばらくして「あ、あったよ、これこれ」とわたしを手招きした。わくわくして覗き込んだ先には。

「秘本 江戸文学選(全9巻)」

確かに中身はエロスである。男色の巻なんかもある。でもこれエロ本とは言わないよー、と無駄にわたしを盛り上がらせた姉に文句を言いながら、堅物の祖父にとっての「エロ本」がこれであったことに、なんとなく微笑ましい気持ちになった夏の日。おしまい。