メトロガール

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ジャングル|アプトン・シンクレア

昭和初期世界名作翻訳全集 (3)

昭和初期世界名作翻訳全集 (3)

書影どころかタイトルすら出てきませんでしたが、シンクレアの「ジャングル」です。およそ100年前に書かれた、シカゴ食肉業界の悲惨な労働環境や不衛生な製造過程を告発するプロレタリア小説。最近松柏社から新訳が出ているので、おそらくそちらだと手に入りやすく読みやすいのではないかと思います。わたしは友人に借りたので、昭和初期にプロレタリア文学者前田河広一郎さんが訳したものの復刻版で。

旧字体だし印刷はざらざらだし、読めるんだろうかと不安な気持ちで、ほんの数ページ捲ったときにはもう小説に飲み込まれていた。リトアニアからアメリカンドリームを胸にシカゴへやって来た青年ヨリウスと、その婚約者オーナの一家。なけなしの蓄えをはたいて一軒家を買い、一生懸命働きさえすればすべてはうまくいくと思っていた善良な人々は、これでもかという悲惨に叩き込まれてゆく。物語の冒頭は、ヨリウスとオーナの結婚式であり、彼らはすでに経済的には危機的状況にあったものの、「結婚式くらいは祖国の慣習どおりに」という強い気持ちから豪勢なパーティーを開いている。その賑やかな場面から、どんどん転がり落ちていく物語の展開は、正直ホラー並みに恐ろしく、(不謹慎だけども)小説として魅力的なものだった。屠殺場や食肉加工場のにおい立つ描写、シカゴの容赦ない冬の描写は生々しくて、主人公一家にすっかり感情移入して、次にどんな不幸が待ち受けているのかとおののきながら読み進めた。

小説としては、前半の面白さが格別で、3/4を過ぎたあたり、社会主義に目覚めたヨリウスが政治運動にのめり込んで以降は正直ただの「社会主義のコマーシャル」でしかない。シンクレアが根っからの社会主義者で、この小説が書かれた時代を鑑みれば気持ちはわかるんだけど、当時ユートピアとされた社会主義運動がたどった道を知ってしまった現代の目で観ると、どうしてもこのプロパガンダ部分は冷めた目で見てしまう。最近のニューリベラルに傾いている世相から「ジャングル」も新訳が出たのかな。個人的には、感情の部分での同意は多いにありつつも、「貧困」って「平等」って何だろう、と非常に複雑な思いにとらわれる動きです。