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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

強引なる奈良観光。

よしなし 旅のはなし

先週前半は、関西に出張だった。


奈良に行くのは、中学校の修学旅行以来。月曜日の夜暗くなってから着、その晩は泊まって翌朝8時半から仕事、仕事を終えるとすぐに次の仕事先神戸へ移動という、毎度ながら楽しみのかけらもないスケジュールに、「奈良まで行ってお寺のひとつも観られないなんて!」と絶望していたのだけど、ホテルで同僚が「無料レンタル自転車」を見つけ、早速フロントに訊ねる。「これ、何時から貸してくれるんですか?」「朝は4時くらいからです」。その晩は、奈良名物(というのがなんだかよくわからず)とりあえず居酒屋で、「へえ…せんとくん…」「よっ! まんとちゃん!」「えっ? な〜むくんも?」というネタカクテルを飲み、ビブレ前のせんとくん立て看板と写真を撮り、翌朝に備える。

そして、5時半に起床。他に着るものを持っていないので、スーツを着て自転車にまたがり、まだ薄暗い6時の奈良公園へ向かう。そういえば自転車に乗るのはひどくひさしぶりだなあと思いながら緩い傾斜をのぼっていると、ぽつぽつと雨が降り出してきた。うろたえたが、本降りになるふうでもないので、引き返さずに興福寺の入り口に自転車を停めた。興福寺東大寺の2ヶ所はせめて、という気持ちでいたが、どちらも拝観時間は7:30からなので、外観を観るだけの予定。


興福寺は、ちょうど境内を整備している最中であるらしい。近くで合宿をしているとおぼしき坊主頭の男の子たちや、参拝を日課にしている近所の人など、朝早いにも関わらずちらほらひとの姿がある。白髪のおじいさんが「あっちの階段を降りると池があるけど、その途中、右側に三重塔もあるから、観て行きなさい」と声をかけてくれる。「興福寺さん、作り直してはるからな、あの土台の上に立って写真撮るとええよ」というアドバイスまで。「どちらから?」「東京からです」、返事をするとおじいさんは「あらまあ、東京にもぎょうさんお寺さん、ありますのに」と言った。

ようやく空が明るくなってくる中再度自転車。走っていると初の鹿遭遇。

親子でアスファルトの上を駆けてゆく姿が珍しいので思わず深追いしたけれど、そのうち周囲は鹿だらけに……。


紅葉もそろそろかな? といったところ。

鹿を満喫し、東大寺へ。ここでは、もう30年間毎朝散歩に来ているというおばあさんに話しかけてもらう。



時間が早くて拝観はできないので、門の隙間から大仏殿を遠く眺めたのみ。自転車置き場へ戻っていると、ちょうど雲が切れはじめて、周囲の景色が美しくなってきた。そして、その美しい中で、けんかする鹿を発見。興奮して写真を撮っていると、見知らぬ人が「けんかする鹿を撮るわたし」を撮っていた……。



自転車置き場で出くわしたおばあさんは、ビニール袋いっぱいのやさいくずを手にしていた。姿を見ただけで鹿たちが周囲に群がる。「毎朝餌をあげているんですか?」と訊ねると、「来しなに、毎朝なあ」という答え。駐車場や土産物売り場の方へ歩いて行ったので、お仕事をしている方だったのかも。「もうないよ」と言っても、鹿はおばあさんの後をついてゆく。

さらにそこで声をかけてくれたおじいさんは、まず「あんた、望遠のレンズ持ってないんか」と第一声。ない、と答えると残念そうに「望遠やったら、鹿の冬毛が朝陽でふわあってなってるとこ、撮れたんにな。ここは、朝か夕方やないとだめ。昼来るのは、ばか」と言った。話を聞きながら自転車を押していると、「あっちに、紅葉のはじまってる木があってな、観て行くと良いよ」と促す。てっきり、さっきのぼってきた、若草山に向かう遊歩道のことかと思い、内心(もう行ったんだけどなあ)と思いながら、黙って着いて行った。おじいさんは、東京の大学を出て、大阪でずっと仕事をし、リタイアと同時に奈良へやって来たそうだ。「大阪におったら、気がおかしくなっとったわ。奈良がこんなに、毎朝毎朝歩いても飽きないとこだとは思わんかったね」。朝の散歩歴は10年。向かいから歩いてくる、テンガロンハットを被った男性に「よお!」と手を挙げ、「あれは、宮大工」と紹介してくれる。

おじいさんが案内してくれたのは、さっきわたしが行った場所ではなかった。

わたしの撮影能力が低いので、この程度になってしまい本当に残念なんだけども、人も車もたくさん通っている場所のすぐ近くに、こんなに視界の開けたきれいな場所があることには、心底感動。おじいさんに会わなければ、見過ごしていたに違いない。

何人もの人と話をして、きれいなものを観て、これから仕事じゃなきゃ最高なんだけどなーと思いながらホテルに戻る途中、猛スピードで自転車を漕ぐ同僚氏とすれ違った。ホテルに戻り、のんびり食事、身支度をしてロビーにいると、彼は息せき切って帰ってくる。「寝坊して出遅れたの?」と訊くと、なんと彼はわたしに5分遅れて自転車を漕ぎだし、平城京古墳を回ってから、7:30の東大寺大仏殿拝観開始を狙って奈良公園の方角へ向かっていたというのだ。「ほら」と拝観券の半券を自慢げに見せる彼に、敗北感たっぷりのわたし。そして一緒にいた上司はあきれ顔。もちろん早起きの体にむち打って、仕事はしっかりやりました。