読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

イングロリアス・バスターズ|クエンティン・タランティーノ

四ッ谷駅のポスターを眺めて、どうしようかなと思ってそのまま帰宅したのが昨日。夜になったら、巡回先のブログやTwitterで皆さん語ること語ること。いても立ってもいられずその場でオンライン予約をしてしまった。デス・プルーフを観ていないし、キル・ビルも確か2はDVDだった。タランティーノの映画を劇場で観るのはずいぶんひさしぶりなんだなあ。

舞台は、第三帝国支配下のパリ。ゲッベルスは、ヒトラーをはじめとするナチ幹部を一同に集めてプロパガンダ映画のプレミア上映を行うことを計画している。それに乗じて連合国軍ナチス殲滅部隊「イングロリアス・バスターズ」と、ナチスに家族を殺されたユダヤ系フランス人女性はおのおのに、ナチ首脳陣皆殺しを目論む。

タランティーノによる歴史改変もの、といえなくもない。でも歴史や政治的なところに力点は置かれていなくて、とても不謹慎な映画かもしれないけども、とても楽しく観ることができた。「トゥルー・ロマンス」を観たときに、映画オタクの冴えない青年の夢物語がキラキラのラブストーリーになっていることが、嬉しいような微笑ましいような恥ずかしいような、とにかく心臓がぎゅっとなった。タランティーノはそんなふうに、映画(ことB級アクション)が好きだ!という青年の妄想と偏愛を抱き続けた上で、単純な「好き」に、映像や脚本のセンスや技術を乗っけてくる。ただ愛だけでもないし、ただ技術だけでもない。どこかにオタクっぽいダメ感もある。そういうところがやっぱり、好きだなあと思う。復讐、暴力、そういったタランティーノの好むドラマティックなエッセンス。題材にナチを選んだのはそれだけでなく、映画が大好きなタランティーノにとっては、やはり映画が大好きで、その映画を大衆煽動に利用したゲッベルスというのは興味深い存在だったのかなあと思う。映画好きは映画好きを憎めない。タランティーノの描くゲッベルスは、ちょっとキュートだった。

映画の流れ自体は、そんなに驚くような展開はなくて、アクションやサスペンスにありがちな、悪い意味での「こうなるだろうな〜」というドキドキ感を決して裏切らない。ただ、お約束の展開への流れ方というのが絶妙なので、手に汗握って、痛そうな場面に思わず目を閉じそうになりながら、夢中になっての2時間半だった。主演は、あごがたるんでやや体もだらしなくなってきたことによりむしろ良い男になってきたブラッド・ピット。こういうクレイジーな役どころがすっかり板についてきた。「バスターズ」の個性豊かな面々も、美しく野蛮な女性陣も素敵だったけれど、実質的な主役はクリストファ・ヴァルツ演じるランダ大佐といっていいくらい、彼は強烈だった。キャストでは他に、「ノッキン・オン・ヘヴンズドア」のティル・シュヴァイガーが相変わらず格好良く、「グッバイ・レーニン」のダニエル・ブリュールが非常にうざったく、イーライ・ロスがチャーミングだったりと、久々に観るドイツ俳優や監督陣の演技もとても楽しかった。

ところで終盤、映写技師マルセルが大量のナイトレート・フィルムを前に立ち尽くしているのを俯瞰で撮っている場面。絵面として一番印象に残ったのはあの場面だった。あれはせつない。