メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

Good-bye lonely heart drawings.

ずっと楽しみにしていたDaniel Johnstonの来日公演を観に、原宿のラフォーレミュージアムへ。2003年のクアトロには行けなかったので、今回がはじめての生演奏、本当に本当に楽しみにしていて、同じくらい不安で怖かった。身体的にも精神的にも不安定な彼が果たして本当に日本に来て、ライブができるのだろうか? そんな不安は半分的中して、昨日8日に予定されていた大阪公演は、ダニエルのせいではなく、悪天候による航空機の遅れにより延期となった。そんなこともあって、今日は朝から何度も何度も呼び屋であるSmashのサイトで公演中止のアナウンスがないかどうかをチェックした。

わざわざ説明するまでもないだろうけど、ダニエル・ジョンストンというのはアメリカのシンガーソングライターで、ポップアーティストでもある。カート・コバーンが彼のイラストレーションが描かれたTシャツを着用したことから有名になったダニエルは、ティーンエイジャーの頃から躁鬱をメインとする精神障害を抱えている。12歳のまま心の成長がとまり、初恋の女性と葬儀屋の歌ばかりを延々と作りつづける彼の半生は「悪魔とダニエル・ジョンストン」というフィルムにもなった。

開演時間は少し押して、ダニエルは飄々と、ステージの真ん中に歩いてきた。ギターを持って、歌いはじめてからも、わたしはなんだか、夢の中にいるみたいな気分だった。同じような気持ちの人は多かったんじゃないかな、皆、まるで不思議な光景に立ち会っているかのように、妙に静かな興奮状態で、ダニエルを見つめていた。白い髪がライトを浴びて輝いて、目の前にダニエルがいて、歌っているということに現実感を持てずにいるような、そんな感じだった。

2003年の公演ではあまり調子が良くなかったらしいダニエルは、多分今日は、すごく調子も機嫌も良かったんだと思う。にこにこして、たくさん歌って、「キングコング対ゴジラ」の話をした。観客を促して、一緒に歌った。ギターの弾き語りはたどたどしくて、ピアノの弾き語りは素敵で、ギタリストを入れての歌は、力強かった。新しい歌も、とても昔の歌も歌ってくれた。間に休憩をはさんで、一時間ちょっとという演奏時間は、他のミュージシャンのライブだともの足りなさを感じたかもしれないけれど、体調に気を遣うダニエルのライブでは十分すぎるほどの時間。

マイクをにぎる手がずっと、ぶるぶると震えているのを見ていて、一度のアンコールでもう十分だと思っていたのだけども、鳴り止まない拍手の中、客電もついて、追い出しのSEもかかっているのに、ダニエルは再度ステージに姿を現した。ギターも持たず、アカペラで歌う彼は本当にきらきらしていた。だらんと左右にたらした両腕はやはり激しく震えていて、理由はわからないんだけど、この2度目のアンコールを観ていたらぼろぼろ涙が出てきた。

ひとの心はもろくて柔らかい。がんばって、がんばって、わたしたちはその柔らかい心に外皮をつけて、いろんなことをやり過ごそうとしている。だからこそ、その柔らかさをむき出しにした人たちの表現にこんなにも惹かれてしまうんだろう。もしかしたらこれが最初で最後で、もう二度とダニエルのライブを観ることはできないかもしれない。でも、今日のことは多分、ずっと忘れない。それくらい、夢みたいな時間だった。