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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

クレイジー・ハート|スコット・クーパー

落ちぶれた中年カントリーミュージシャンの再生の物語、なんて聞いただけで興味がでてきてしまう。しかも、主人公を演じるのがジェフ・ブリッジスで、音楽を手がけるのはT=ボーン・バーネットとくれば、いてもたってもいられない。

あの音楽と風景があればそれだけでいいやと思えるくらい、アメリカの美しさをぎゅっと凝縮したような映画だった。脚本に関してイメージしていたよりもあっさりとした印象を受けたのは、きっと登場人物が善人ばかりで、ほとんど誰も、落ちぶれてどさ回りをする往年の名ミュージシャン、バッド・ブレイクをあざ笑いもせず陥れようともしなかったからだ。田舎のボーリング場でも、小さなパブでも、お客さんは皆嬉しそうにバッドの歌を聴く。彼が知り合った女性ジーンとその息子も、友人であるバーのオーナー・ウェインも、バッド自身が複雑な感情を抱く相手である、かつての弟子であり現在はバッドよりはるかに人気のあるシンガーであるトミーや、他の音楽スタッフも、皆が皆、バッドの才能を信じて彼を支えようとする。

ずいぶんときれいごとじみた、トントン拍子に物事が進むなと拍子抜けしながらの鑑賞だったけれど、最後まで見終えてようやく、この映画が描きたいのは物理的な意味での没落と再起ではないのだと納得した。バッドは結局のところ、外的要因によって落ちぶれたわけでも苦しんだわけでもなかった。彼はただミュージシャンとしての過剰な才能を扱いきれず、そのことによって苦しみ、孤独に陥っていた。
ベッドで即興の歌を口にするバッドに、ジーンが悲しそうな顔を見せる。「世の中は才能がない人だらけなのに、あなたはそんなにも才能にあふれている」「わたしがここにいるのに、あなたはまったく別の世界にいってしまうんだわ」。音楽は、バッドに成功をもたらしたけれど、その才能ゆえに彼は女性や家族ときちんとした関係性を築くことができず、酒に溺れ、名声からも遠のいてゆく。そして、バッドが自分の才能や生活、人生と素直に向かい合うことにより、少しずつ彼は苦しみを脱して、本当に大人の男になっていったように思える。もちろん何もかもが上手くいくわけではないけれど。

ジェフ・ブリッジスの演技は素晴らしくて、彼の主演作と言えば「ビッグ・リボウスキ」をまず思い出すわたしにとって、最初の場面がボーリング場だというのもちょっと楽しかった。そして、ジェフと、トミーを演じたコリン・ファレルがきちんと歌えていたのにびっくり! 「オー・ブラザー!」では、自信たっぷりで歌声を披露していたところ、出来上がった映画ではすべて歌が吹き替えになっていた、とジョージ・クルーニーががっかりしてたっけ(メイキング見たけど確かに上手とはいえなかった)。