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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

FUJI ROCK FESTIVAL 2010 (後半)

グリーンステージに戻ると、VAMPIRE WEEKENDが演奏中。人気のある若手バンドで、ちょっと青臭くキラキラとまばゆい。続くブンブンサテライツは、欧州デビューを経て国内で人気が出たのがちょうどわたしが大学生の頃。もうキャリアは20年くらいあるバンドだと思うんだけど、あの男前のボーカルは老けないなあ。鋭いビートが気持ちいいのか、父親に肩車された金髪碧眼の幼児が大喜びで全身を動かしていた。その様子がかわいくて周囲の人が声をかけると、びっくりした幼児は泣き出してしまい父親が申し訳なさそうに苦笑い。


そうこうするあいだにも空は着々と重苦しさを増し、視界の山並みもけぶってくる。いつ降り出してもおかしくないので、荷物をビニールで覆う、雨具を取り出しやすい場所に動かす、など準備。周囲でもウインドブレーカーを着込みはじめる人がちらほら。また、日没が近く、トリへ向けてグリーンステージの人が増えてきていることを意識してシートを畳みはじめる人たちも。


次はAFPなんだ、と思うとなんとなく落ち着かなくて、後方の芝生にいるくせに、セットチェンジの間からわたしはもう立ち上がってしまう。トムが「The Eraser」というアルバムを出したのはもう4年も前で、まさか今になってそのソロアルバムを中心としたライブを、こんな編成で、しかも苗場で観ることになろうとは。

ステージ袖から人影が現れ、歓声がわきあがる。わたしのいる場所からは顔まではとても見えないけれど、スクリーンに映し出されたトムを見て一瞬動きが止まる。かなり長く伸びた髪、その前髪は額の真ん中あたりで、サッカー選手が試合中に使うような細いヘアバンドを使って止めている。そして、やや丈の長いグレーのタンクトップ。タンクトップ……わたしが知らないだけかもしれないけど、トムがそんなの着てライブやってるとこ見たことない。そして満面の笑みを浮かべている。演奏中に興が乗ってはしゃぐのは見たことあるけども、こんなキャラだっけ……と驚きながら、なんだか楽しくなってしまう。一方のフリーは、赤いTシャツで至って普通の格好。裸とか、裸で局部に靴下とかじゃなくて良かった。

後日「立川談志ファッション」と呼ばれる妙にオサレなトムに圧倒される観客だったけれど、はじまってしまえば演奏に持って行かれる。打ち込み中心で緻密でミニマルな雰囲気だった「The Eraser」の曲が、こんなにもバンドとしっくりきて、力強くダイナミックに、壮大に聴こえるんだ。フリーのベースがこんなにもトムの曲に血肉を与えるんだ。そういったことを漠然と感じながらも、細かいことを考えることなどできないくらい、ただ音楽に持って行かれてしまう。ヘッドフォンで音源を聴くときはいつも、胸を痛め、内省的にいろいろなことを考える。でも、そうして内向きに溜め込んできたものはすべて、生で演奏を聴いているあいだだけは解き放たれてしまうんだ。不思議だけど。

この日のトムは、「コンバンハ〜、イラッシャイマセ〜、ワタシはトム・ヨークです」と日本語で挨拶をしてみたり、歌い始めようとしてこらえきれず吹き出し大笑いしたり、今まで観たことないくらい上機嫌で、はしゃいでいるように見えた。かなり早くから来日していることは聞いていたけど、横浜ブリッツ貸し切りで何日もリハをしていたことはこのときはまだ知らなかった。コーチェラで一度バンドをばらしていて、少しブランクがあったというのもあるのかもしれないけど、それだけ準備してくれただけあって、圧巻の演奏だった。新しい一面を観ることができた驚きと衝撃は、はじめてRADIOHEADの演奏を観たとき以上だったかもしれない。

AFPの余韻に浸りたいのは山々だったけれど、既にホワイトステージではイアン・ブラウンが演奏をはじめている。相変わらず歌は下手で、いいおっさんなのに馬鹿。でも、イアンが変に分別臭いこととか小利口なこと言い出したら逆に嫌だし、イアンが「俺はフジロック5回目だぜ! 今回は5回記念! イエー!」とどうでもいいことで盛り上がっているのを観るとなんだか安心もするし、一緒に喜んでみたくもなる。なぜオレンジレンジの人とあんなに仲がいいのかはとりあえず置いておいて、キング・モンキーは今回も存分に観客を楽しませ踊らせ、最後に「FOOLS GOLD」まで披露してくれましたとさ。フジ10回記念までがんばれイアン!

雨が本降りになってきたので、トリを前に雨具を着込む。マッシヴに後ろ髪を引かれながらも、今回はべルセバを観ることに決めていた。以前べルセバについてこんなエントリー(http://d.hatena.ne.jp/asx/20080213)を上げたことがあった。変な自意識から解き放たれて、ようやく落ち着いて聴けるようになって、ライブも観てみたいなと思うようになった。それまで10年近くかかり、イザベラはいなくなり、スチュワートはすっかりおっさんになってしまった。でも、おそらくは年月が経った分だけ彼らのパフォーマンスはとても完成度が高く、エンタメとしてきれいに成立していて、まさに円熟。

ここは真夜中の山奥で、激しく雨が降っていて、観客だってゴアテックスや雨具に身を包んだ異様ななりでのそのそと踊っている。そんなキュートでもポップでもない状況が、べルセバが音楽を奏でるだけで、スチュワートがマイクを持って歌い踊るだけで、甘酸っぱくもキラキラとした世界に様変わりしてしまう。ポップ・ミュージックの魔法って多分こんなだ。「ヤマで、ウタウのが、スキです」とたどたどしく口にし、一気にわたしたちを魔法の世界に連れていって、べルセバは最初から最後までキュートでファニーだった。ステージの灯りに誘われて飛び込んできた甲虫を、スチュワートが女性メンバーにけしかけると、サラが「No, No...」と本気で顔をしかめ後ずさりする。「じゃあ彼は特等席に」とキーボードの上にそっと虫を置き、「甲虫」にちなんですかさずビートルズのカバーを披露。ベタだけど、ずっと好きだった、べルセバ好きじゃない時期もこれだけは好きだった「I`m a Cuckoo」も聴けて嬉しかった。

1:00過ぎ出発のバスで東京に戻るので、横目でグリーンステージクロージングのシザーシスターズを眺めながら会場を後にする。クリスタルパレスの横を通ったら、大歓声と、聴いたことある音楽。決して広いとは言えない小屋にぎゅうぎゅうになった人々が、OZOMATLIの演奏に踊り狂っている。フジロックはまだまだ朝まで続く。来年はもう少しゆっくり来れるといいな。

ところで往路はシートの狭さ堅さが気になって眠れなかった夜行バス、疲れもあってか復路は乗車した直後に意識を失い、目を覚ましたときにはもう見慣れた都内の光景が広がっておりました。平日早朝、夜遊び帰りの女の子達に交じって、どろどろの長靴のわたしは地下鉄で家まで帰ったのでした。