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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ひとりでホーチミンに行ってみた(2日目の前半)

旅のはなし

深夜にホーチミンに到着し、早くも翌朝。5時半に目覚ましが鳴って目を覚ます。カーテンを開けるとなぜか真っ暗。こんなに暗いものなのかな? としばし首を傾げ、はっとする。部屋にアラームの備え付けがなかったので昨夜はiPhoneの機能で目覚ましをかけて眠った。しかし肝心のiPhoneタイムゾーンを変更した記憶がない。要するに日本時間のまま……ということはベトナム時間では今はまだ3時半。外が暗いのも当然だ。


寝直して再度6時前に目を覚ますと、ホテルを出た。旅先では化粧もしないし洒落っ気も出さないので身支度がらくちん。どうせ帽子をかぶるから寝癖だって気にならない。



目抜き通りであるホテル周囲には観光客を相手にした雑貨店や外国ブランドの店が連なっている。空気は生ぬるく、まだ車やバイクはほとんど走っていないが、歩道や縁石に座り込んでいる人がちらほら。小さな屋台を開いて、何か朝食をふるまっている女性の姿も目立つ。野菜や肉とパンを持っているのは、その場でバインミーを作ってくれるのだろう。なんとも美味しそうに見える。

何を隠そうわたしがこんな早くにホテルを出たのも、メコン川に行く前に、バインミーを食べたいからなのだ。かつてフランス領であったベトナムではバゲットを使ったサンドウィッチ「バインミー」が広く食べられている。バゲットは、ベトナム独自の進化をとげ、「皮がかたく中身は空洞であるほど良い」フランスのものとは異なり、ややもっちりとしているらしい。パン好きのわたしとしては、フォーやチェーより断然このバインミーに興味がある。そして、一番美味しいバインミーを出すという有名店「ニューラン」を訪れることは、この旅の目的のひとつだったのだ。

地図上では遠く見えたけれど、ホテルから5分ほどでニューランについた。果物や肉類、パンや菓子などさまざまな食料品を売っている店で、店内にはテーブルと椅子もある。料理を頼んで食べることもできるらしい。近所の人がやってきてはパンやバインミーを買っていくが、無造作に積み重なった大量のサンドウィッチは、どれにどんな具が挟まっているのかわからない。間違って変なものを頼んだら嫌だな。以前台湾で指さしで料理を頼んだら、豚の血を固めたものが出てきたことがあったな。そんなことを考えつつしばし商品を眺めた後で、ケバブのような肉のかたまりを削っているおじさんに歩み寄る。肉を削っては、なますのようなものとともにパンに挟んでいるおじさん。この人に頼めば間違いなく、この焼豚を挟んだものを買うことができるに違いない。「エクスキューズミー」と声をかけ、おじさんの横にあるサンドウィッチを指さす。「これ、ください」。おじさんが指を1本立てる。そう、ひとつ。持ち帰ります。USドルで支払いしてもいい? おじさんも観光客には慣れているのだろう、すんなりと買い物は済んだ。それどころか、最初無愛想にも見えたおじさんは、わたしが首からぶら下げているカメラと大きな肉のかたまりを指し、君とあの肉のツーショットを撮ってやる、というようなことを(多分)ベトナム語で言っている。せっかくなので一枚お願いした(ツーショット写真の掲載は割愛)。



ニューランで買ったバインミーの袋を腕からぶら下げ、そのまま激安ツアー会社が乱立するというパッカー街、ファングーラオ通りを目指す。やや距離があるので迷わずに行けるか不安だ。
歩いていると、通りすがりの自転車に乗った高校生が手を振ってきた。振り返すと、なにやら友人に向かってはしゃいでいる。田舎の高校生みたいな反応がかわいらしい。ベトナム人女性はほとんどスカートを履かないので、ワンピースにレギンスを履いているわたしは顔かたちを確かめるまでもなく外国人だとわかってしまうのだろう。





通りかかった公園では、人々が体操をしたり、バドミントンを楽しんだり、犬の散歩をしたりと朝の時間を楽しんでいた。まだ気温湿度ともに低い朝の方が活動しやすいのだろう。犬を飼うことは一般的であるようで、小型犬から大きめのものまでさまざまな犬種を見ることができるが、首輪やリードがついているものはそう多くない。

時間が経つにつれ大量のバイク、タクシー、バスが道路を埋め尽くす。一応信号はあるものの、とにかく車両が多いのでなかなか渡るタイミングがつかめない。車両が少なくなった瞬間を狙って道路に踏み出してしまえば、向こうもそれなりに避けてくれるが、まごまごしていたら永遠に道路の向こうにたどり着くことは出来そうにない。とりあえずは現地の人が道を渡るのに便乗することにした。その後回数を重ねるにつれて気づいたことだが、ホーチミン市民は優しく、道路を渡るのを躊躇しているとわざわざ目の前に来て一緒に渡るよう勧めてくれることが少なくない。

幸い道に迷うこともなく、ファングーラオ通りにたどり着いた。欧米人の旅行者が多く、周囲にはミニホテルが建ち並んでいる。パッカー街だと聞いていた割にこぎれいで、欧米人を見込んでか、小じゃれたカフェやダイナーもちらほらある。そのような店の軒先でも、座り込んで食事をしている地元の人がいるのが面白い。

「シントラベル」という大手旅行会社を見つけたので、中に入る。青と白で統一されたきれいな店で、カウンターの中にパソコンが並び、揃いのの制服を着たスタッフが座っている。パッカー向け旅行会社という話からイメージしていたものとはずいぶん違い驚いた。入り口近くのカウンターにいる男性に「予約をしていないのだが、空きがあればメコン川に行きたい」と告げると、別のカウンターを示される。そちらへ行くと、パンフレットを差し出された。メコン川ツアーには2種類あるらしいが、チラシを見ただけではどちらが優れているのかさっぱりわからない。「どちらが人気があるの?」と聞いて、勧められた方を申し込んだ。11ドル50セント。値上がりしているようだがそれでも十分安い(円高だし)。申込み控えを渡され、出発は8時半なので、15分前には店の前に集合するよう言われたが、時刻はまだ7時半にもなっていない。時間をもてあましてしまい、店の前の歩道に立ったまま、さっき買ったバインミーを食べることにした。これが予想以上においしい!

パンは、中身は確かにもっちりしているけど、クラストは意外にぱりっとしている(実はニューランのパンには固めと柔らかめの2種類あり、これは固めのほうだったらしい)。焼き豚と、酢漬けのタマネギなど、野菜。ニョクマムの香りと唐辛子の辛みがきいていて、日本でもヨーロッパでもなかなかお目にかかれない味。素晴らしい。かなり大きかったにもかかわらず一気に全部食べてしまった。これで1ドル程度というのもすごい。

おなかもいっぱいになったので休憩がてら近くにあったカフェに入る。短い旅なので体調を崩したらおしまい、水にだけはやや神経質になっていたため、屋台風のコーヒーショップに入る勇気はなかった。「ハイランドコーヒー」はシアトル系コーヒーチェーンのようで、あちこちで店舗を見かけた。どこも盛況だが、客は主に観光客であるように見える。セルフだと思い、注文のためカウンター前に立っていると、店員に席を選んで座るよう言われる。窓際の椅子に座るとメニューを持ってきてくれた。メニューには日本のコーヒーショップとそう変わらないものが並ぶ。隣のホテルと提携しているのか、店内のあちこちで宿泊客が朝食をとっていた。

わたしがオーダーしたのはアイスのチャイで、確か35,000DNくらい。味は、少し薄いけどまあ許容範囲。「水やおしぼりは別料金」と聞いていたホーチミンで、すかさずお冷やも出てきたり、観光客相手の店だけなのかもしれないけど、サービル意識の変化は強く感じる。店員の教育もわりと行き届いている。

ぼんやりとチャイを飲みながら窓の外を眺める。ベトナム人の母親が子どもに安っぽい絵や写真をたくさん持たせて、子どもがそれを観光客に売りつけにいくが、商売はなかなかうまくいかない。