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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ベンダ・ビリリ!|ルノー・バレ&フローラン・ドラテュライ

映画のはなし

コンゴのストリート・バンド「スタッフ・ベンダ・ビリリ」が見いだされ、世界で成功を収めるまでを追ったドキュメンタリー映画。ひっそりとローカルに奏でられていた音楽が、欧州の映画作家によって世界的な名声を得てゆく、というパターンからはブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブや、ファンファーレ・チォカリーアあたりが思い浮かぶけれど、こちらは純粋な音楽映画(ブエナ・ビスタ〜は素晴らしき老人讃歌でもあった)というよりは、サバイバルの物語である。

映画の撮影がはじまったのは2004年。2人のフランス人がキンシャサの路上で演奏をする「スタッフ・ベンダ・ビリリ」と出会い、その音楽をヨーロッパへ紹介したいと考える。

バンドのリーダーであるリッキーをはじめとし、中心メンバーは下肢に障害を負っている。ひとりの、特に障害の重いメンバーが「これはポリオのせいだ」と語る。他のメンバーの障害も同じ病によるものなのかはわからない。彼らのうち何人かは、障害者シェルターで暮らし、何人かは路上で生活をしている。バンドの周囲には、ストリート・チルドレンがいる。子ども達は、リッキーを父親代わりに慕い、「スタッフ・バンド・ビリリ」を自らの代弁者であるかのように誇る。子ども達はまた、自転車を改造して作られた障害者たちの三輪車椅子を押し手伝うことで食料などをもらい、生活の糧とすることもある。

スタッフ・ベンダ・ビリリはラテンやファンク、ジャズの要素を感じさせる非常に叙情的で情熱的な音楽を奏で、踊る。彼らが歌うのは生活や境遇そのままであり、ポリオにより自身がどれほどに傷ついたかを訴え、世の母親にどうか予防接種を受けて子ども達を守ってくれるよう頼む。段ボールの上で寝起きし、愛しあい、家庭を作り、子どもを育てる生活を赤裸々に歌う。内戦を経て今だ安定しない政情、それらによって引き裂かれた親兄弟への情を歌う。ぼろぼろの楽器と声だけなのに、そのエネルギーも演奏力も素晴らしくて、あっという間に引き込まれてしまう。ただ周囲で聴いて体を動かしているだけなのに、集まって来るギャラリーや子ども達の声の合わせ方やリズムのとり方も凄い。ジプシー音楽にも思うことなんだけど、生活に根ざした音楽において、楽器の有無なんて小さなことなんだろう。ルーマニアのジプシー達は、手拍子とスプーンや食器であっという間に素敵な音楽を奏ではじめる。キンシャサの路上で人々は、草履で地面を打ち、リズムを取る。

映画全体と、バンドの音楽において重要な役割を果たすのが、空き缶と木片を使った不思議な弓形の一弦ギターを作り引く少年、ロジェの存在だ。キンシャサで映像を撮りつづける中で、撮影スタッフはこの奇妙な少年に出会う。「これを弾いて、気に入ってくれた人がお金をくれることもある。いつか音楽で成功できれば」と言うロジェはわずか13歳だったが、その類いまれなセンスに撮影スタッフは驚き、翌日ロジェをリッキーに紹介する。「俺はこの子をいっぱしに育てることができる」という言うリッキーに、ロジェは「僕は我慢強い方だから、きっと成功することができる」と呟く。ロジェの母親は離婚以来体調を崩し、働くことができない。まだ幼い彼の肩にずっしりと、親兄弟の運命までものしかかっていた。

彼らの多くが暮らす障害者シェルターの火災という、ささやかな生活を無に還す悲劇を経て、5年間もの月日をかけてアルバムは完成する。欧州各地の音楽祭で絶賛を浴びた彼らは、今回の映画公開に合わせて日本にもやってくることが決まっている。

映画自体は淡々としたもので、特に彼らがヨーロッパ・ツアーに入ってからの終盤は、あまりの展開の早さに驚かされる。ぼろぼろの手作り三輪車に乗って、汲んできた水で体を洗っていた彼らが、ホテルでブランデーを飲み、パーティーで大使と会い、きちんとした車いすにいい身なりで乗っている。路上の子ども達の信奉を受けていた彼らが成功し、金と名声を得た後で、キンシャサでどのような生活をし、どのような活動をしていくのかという興味への回答はない。ただ、音楽を通じて生き延びようとしてきた人々の姿だけがそこにはあった。

印象に残った場面がある。バンドの音源がフランスでリリースされ、いつもの練習場所(動物園の芝生)に集ったメンバーは、ぼろぼろのラジオに耳を傾け、彼らの音源の評判を聞く。フランスのフェスティバルへの出演が決まり喜ぶメンバーを横目に、ふたりの子ども(メンバーの子どもなのか、取り巻きのストリートチルドレンなのかはちょっとよくわからなかった)が会話を交わしている。
「どうしてみんな、ヨーロッパに行きたがるのかな」
「ヨーロッパには、誰でも行けるわけじゃあないしね」
「僕もヨーロッパに行きたい。でも、なんで行きたいのか、よくわかんないんだ」
「ヨーロッパっていう国は、神様がここと比べるために作ったんだよ」
この最後の一言は、いろんな意味で強烈だった。