メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

噛む草

火曜日は遅ればせながら係の新年会だった。そこでなぜか田舎育ちの話になって、わたしは多分20年以上ぶりに「噛む草」のことを思い出した。

4歳から7歳まで3年間、父の転勤で大分県中津市で暮らした。大分自体田舎であるが、そのなかでも一応県庁所在地である大分市内と比べると、県北にある中津はよりいっそうの田舎だった。臆病者のわたしは当初「外にはバッタさんがいるから」と幼稚園に通うことを断固拒否し、ようやく門をくぐったのは年長になってから。けっきょく通園したのは一年間だけだった。決して多くはない当時の思い出のうち奇妙に鮮明なのが、子どもたちが噛んでいる草の茎のことである。赤っぽい太い茎の草をちぎっては、「ふき」のように外側の皮を剥き、その茎を噛むのだ。味は、酸っぱい。たいして美味しいものではなく、それだったらすみれやツツジの花を抜いて蜜を吸った方がまだましだ。なのに子どもたちの多くは幼稚園の行き帰り、外遊びの最中、よくこの草を噛んでいた。長い茎の端から噛み、味がなくなるとその部分を噛み切って吐き捨て、また残りの部分を噛む。一体あれはなんだったんだろう。

「なんか、皆して草を噛んでいたんですよ。酸っぱい草を」と言ったらわたしより6つ年上の係長が「それ俺だよ!」と声をあげた。係長も、長年忘れていた「噛む草」のことをその瞬間思い出したのだ。「俺すっげえ噛んでた。しかもさ、俺、その草噛むの止めた日のことはっきり覚えてるもん。ばかみたいにいつも噛んでたのにある日急に気づいたの、これ別にうまくないじゃんって」。

その場にいた都会育ちの面々はぽかんとして、「雑草を噛む」話で盛り上がるわたしと係長を眺めていた。係長は熊本出身。もしかしてあれは九州の子どもに特有の習慣だったんだろうか。そして今日、知人のパーティーでお会いした初対面の女性が「わたしも噛んでた!」と言った。彼女は長崎出身らしい。やはり……と思いつつ帰宅して適当なキーワードで検索すると「すいば/すかんぽ」というタデ科多年草の画像が現れた。赤い小さな穂のような花にも見覚えがある、間違いなくこれだ。沖縄を除く全国に分布するらしいのに、九州以外の子どもはこれを噛んでいた経験はないのだろうか。今度もっといろいろな人に聞いてみよう。