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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

道をきかれる




よく道を聞かれる。歩くのは早いし、顔が恐いとよく言われるにも関わらずやたら聞かれる。多分、女で、ひとりで歩いているから声をかけやすいんだろう。荷物が少ないから、そこに慣れた人間だと思われてしまうんだろう。わたしは方向音痴でうまく場所の説明ができないから困る。ランドマークにも有名なお店にも疎くて、映画館とライブハウスと本屋くらいしか知らないから困る。

日本人だけではない、外国人にも聞かれる。このあいだは数寄屋橋のところでアラブ系と思われる女性に話しかけられた。しかし彼女が必死に訴えてくる番地は銀座には存在しない。一緒になって途方にくれて、ふと彼女が後生大事に握りしめているA4の紙に気づいた。目的地の情報をインターネットからプリントアウトしてきたのだろう。地図やビル名がわかればもしかしたら、と思い「それ見せて」と彼女の手から紙を取り上げるが、悲しいかなそこにはびっしりとアラビア文字の羅列。負け犬のようにとぼとぼと彼女とその夫を連れ信号を渡ると、わたしは彼らに数寄屋橋交番を指し示したのだった。

今日、友人と食事をすませた帰り、カバンに買ったばかりのカメラが入っていることを思い出した。昼間に比べると人通りが少ない銀座で試しにシャッターを押してみる。今まで手で着脱するレンズカバーのついたカメラしか使ったことのないわたしに、起動ボタン一つでカバーが開き沈胴レンズが飛び出してくる手軽さは新鮮。暗さに弱いレンズやカメラしか持っていなかったので、f2.8の明るさも新鮮。楽しくて、シャッターを切りながら中央通りを歩いていた。シャネルのビルの電飾がいい感じに浮かび上がるチャンスをうかがっていると、ひとりのアジア系バックパッカーが声をかけて来た。

「銀座で有名な通りはどれですか」、一瞬考え込む。
「銀座は有名な通りだらけだけど、多分この中央通りとか、向こうの晴海通りじゃないのかな」
「4つ、有名な通りがあるらしくて、それをすべて見晴らせる場所から写真を撮りたいんだけど。このあたりに高い建物はない?」
だから、カメラを持っているわたしに声をかけたというわけだ。
「もう時間が遅いからビルはほとんど閉まってるよ。東京駅近くの新丸ビルなら確か窓から写真が撮れたと思うけど」

なぜか彼は「森ビル?」と聞き返し、最終的には今晩の写真撮影を諦めたようで、残念そうに去っていった。結局、有名な4つの通りって、どれのことなんだろう。