メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

憧れの「おばちゃん弁当」

わたしの勤務先があるのは所謂オフィスビル的な建物で、まあ同業というか、関連機関ばかりなんだけどいくつかの組織が同じ建物に入居している。以前伝え聞いたところだと、建物で働いている人間(テナント除く)は2,500人超、お客さんの出入りも多いので、日々ごったがえしている。

都心部とはいえ、商業地域まではひと駅もしくは徒歩10分弱。もうちょっと近くのお店もあることにはあるけれど、やはりお昼は混み合う。60分のお昼休みが与えられているとはいえ、なんだかんだとつぶれて丸々取れないことも多いし、休みの開始、終了前後はやたらエレベーターが混み合うから、下手すると建物を出るまで10分かかる。というわけで、人々の昼食行動は「それでも外に出て食べる組(一日建物の中にいるとうんざりするから)」と「あきらめて建物の中で食べる組(外に出るのも面倒)」に、割ときっぱり分かれている。中で食べる組にも、テナントの食堂(社食の他に、蕎麦屋、ファストフード店等数店舗が入居)を使う派、コンビニで調達する派、お弁当屋で買う派、さまざまだ。

そもそも出不精かつ好き嫌いの多いわたしは、もっぱらコンビニか、某チェーンのサンドウィッチばかりを昼食にしていた。しかし、某チェーンは購入するのに並ぶし、ボリュームの割に安くはない。コンビニ食も飽きてくる。いつからか週の半分くらいはお弁当を買うようになった。お弁当屋さんは、物販エリアに3社がブースを出しており、400〜500円程度で買える。また、カートに乗せたお弁当をフロアを回って販売する業者が2つあり、これらは「お昼に地下までお弁当を買いに行くことすら面倒」な層に受けている。味はまあ、どこも似たり寄ったりのビジネス弁当なのだが、メニューの好み、ちょっとした値段やサービスの違いでこれもまた、人によって贔屓の弁当屋が違うのが面白い。

通称「おばちゃん弁当」と呼ばれているのは、巡回販売をしてくれる業者のうちひとつで、ショートカットの初老の女性が売り回るから、誰からともなくこう呼ばれるようになった。正式名称は知らない。他より少しだけ値段が安いことと、人懐っこいおばちゃんのキャラクターによりファンは多いようだ。隣の席の係長は、昼食代を節約するため毎日この「おばちゃん弁当」のSサイズ(350円)を食べている。彼には食べる物を携帯のカメラに収める癖があり、飲み会の料理、たまに出かけた先のランチ、本当に困窮した際の昼食である100円カップラーメンまでなんでも写真を撮るのだが、不思議と「おばちゃん弁当」だけは撮らないので、わたしは釈然としない。「おばちゃんに失礼だから、たまには撮ればいいのに」と言っても、彼はかたくなに弁当にはカメラを向けない。

「おばちゃん弁当」のすごいところは、時間が下がると値段も下がることだ。しかもけっこう適当。多分、売れ行きと昼休みの残り時間を勘案して、おばちゃんが決めているんだと思う。たまに後輩が「これ200円にしてもらっちゃった」などと喜んでいる声を聴く。さらにすごいのは、ごく稀にであるが、13時(午後の業務開始)ちょっと前に、おばちゃんがお弁当を片手に執務室に向かって声をかけるのである。「誰かタダでいいから食べない? お昼買い損ねた人とか、お腹減ってる人とか」。なんと無料配布。

そんな「おばちゃん弁当」に興味津々のわたしであるが、なぜか一度も食したことがない。というのもこの建物にやってきて最初に仕事をしたときの先輩が「あのお弁当あまりおいしくない」と言っていたので、なんとなく他業者で買う癖がついてしまったのだ。本当は買ってみたいんだけど、何年間も挨拶だけ交わして一度も買っていないのに今頃購入の列に並ぶのもなあ……という、いつの間にか芽生えた変な自尊心をクリアするのが最近の目標だったりする。来週こそ。