メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

La Dispartionな日々

水曜の晩、少し早く帰宅できたことに浮かれていたせいか、パソコンにチャイをこぼした。量は少しだったし、すぐに拭き取ったので大丈夫だろうと(実際その後普通に使えていた)放っておいたのが失敗だった。翌朝起動したところ、ある特定の、子音が割り当てられたキーボードが反応しない。叩けど叩けど反応しない。

そのキーが使えないことで、人に送る丁寧な文章を書くことが困難になった(iPadで書けばいいんだけど、やはり家の中での入力はパソコンがいい)。たったひとつのキーが使えないだけでこんなに不便だというのは、新鮮な驚きだった。これが「tab」とか「option」だったら気にせず使える(というか、反応しなくなっていることにすら、しばらく気づかなかった可能性が)んだけど。

数社に修理代の相場を確認したところ、「最低20,000〜30,000円くらい」という回答。都内の良心的なショップなど「たったひとつのキーに高額の修理代払うより、外付けキーボード使った方がいいですよ」と諭してきたくらいだ。というわけで外付けキーボードの入手を決意すると同時に日々のあれこれを壊れたキーボードなしでやり過ごすうちに、件のキーを使わず文章を作成することにずいぶん慣れてきた気がする。

特定の字を排除した、言語遊び的な文学手法は「リポグラ×(最後の字が打てない)」と呼ばれ、ジョルジュ・ペレックが「e」を排除して書いた『La Dispartion(邦題は打てない)』などが代表作らしい。「e」なしで書くこと*1には及ばないが、実際に特定のキーを排除して過ごして、ようやくその困難の一端を理解したような気がする。なお、『La Dispartion』の邦訳は「い・き・し・ち・に・ひ・×(打てない)・ゐ・り」を排除しているのだから、訳者だって相当苦労したはず。とはいえ、わたしはウリポ的な実験がしたいわけではなく、ただ普通に文章を打ちたいだけなので、連休初日の朝、いそいそと外付けキーボードをオーダーしたのだった。

煙滅 (フィクションの楽しみ)

煙滅 (フィクションの楽しみ)

*1:フランス語で一番使用頻度の高い母音が「e」とのこと。