メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

Mちゃんのこと

大学に入って間もなく、Mちゃんという女の子と出会った。当時のわたしはあるミュージシャンのことが大好きで、イベントやライブなどに欠かさず足を運んでいた。そこで親しくなった同い年の友人から紹介されたのがMちゃんだった。

Mちゃんは、とある有名な、幼稚園から大学まで一環教育の女子校に通う中学三年生だった。ミッション系のその学校では、人とすれ違うときには「ごきげんよう」と言わなければならないのだと笑っていた。都内の、お金持ちしか住んでいない名の知れた場所の一戸建てに住み、お父さんは社長だという。お母さんは彼女が幼い頃に亡くなり、厳しいお父さんは仕事が忙しくて家を空けることが多い。彼女の世話をするのはおばあさんだけども、おばあさんは甘くて、半ば彼女のいいなりに、お父さんへの嘘や口裏合わせに付き合ってくれるから多少の夜遊びも放蕩も大丈夫とのことだった。

彼女は確かに、年齢からは不釣り合いなお金を持ち歩いていた。着ている洋服も、さすがにハイブランドではないけれど、中学生にしては値の張るものばかり。好きなミュージシャンやお笑い芸人に数万円もするプレゼントをして、顔や名前を覚えてもらったのだと誇らし気に語っていた。イベンターの先行予約で余分にいい席をとっては、友人をコンサートに誘っていた。そんな彼女のことをよく思っていない友人もいて、あの子は生意気だとかなんだとか、そういう話を聞いたことはある。わたしはといえば、自分の中学生時代とはまったく違うMちゃんの行動に呆気にとられたり、戸惑ったりしながらも、彼女に悪い感情は持てなかった。わたしが田舎育ちだから、都会の子はこんなもんなのかな、と思ってしまった部分もあったかもしれない。それ以上に、彼女がときおり見せる、刹那的な表情に、何も言えなかったのだ。

「でも、こんなことできるのも今のうちだけだから」

彼女はよく言った。わたしは受験も経験しないまま、エレベーター式に大学に進み、卒業する。そのまま父の会社で秘書か何かして、ひとり娘だからきっと、父の跡を継げる人と結婚するんだろう。だから、こういう遊び方ができるのは今のうちだけなんだ。そしてときおり、遊びに出かけたことが父親にばれて酷く叱られたのだとしゅんとしていた。

十数年が経ち、ふとしたきっかけで、すっかり疎遠になった彼女の消息を知る。彼女は、最後までエレベーターに乗っかったままではなかった。同じミッション系ではあるが、外部の大学へ進み、インターンシップなんかもして、彼女の父が経営するのではない会社に総合職として入社した。今ではお飾りでもなんでもなく戦力として、仕事をばりばりこなしているようだ。中学生だった彼女は同じ顔のまま、でもすっかり大人になった様子で、なぜだかはよくわからないけどその話を聞いて、わたしはとても嬉しかった。