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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

ミュージカル「スパマロット」を観る

旅のはなし アートとかエンタメとか

ロンドン行きの航空券を手配した後で、この夏ハロルド・ピンター劇場で「スパマロット」を上演すると知った。モンティ・パイソン映画の最高傑作(とメンバーは認めないだろうが)「モンティ・パイソン・アンド・ザ・ホーリー・グレイル」を元に、エリック・アイドルが制作したミュージカルで、2005年にはトニー賞を受賞した。日程を調べると、千秋楽にぎりぎり間に合いそう。早速チケットを取った。


開演少し前に劇場に着いた。正面入り口から入ろうとすると、2階席は裏口からだと言われて回り込む。ハロルド・ピンターという偉大な名を冠している割にはこじんまりとした庶民的な劇場で、でも重そうな緞帳や天井画といった劇場っぽさはちゃんとある。わたしが購入した25ポンドの席は2階席の最前列やや左手で、右には初老のご夫婦、左には若いカップル。会場は開演時にはほぼ満席になっていた。老若男女入り乱れた客層。


幕が上がると、(モンティ・パイソンではマイケル・ペイリンが演じていたタイプの)進行係の男が出てきて、時代及び当時のブリテンの背景を、地図を用いて説明する。と、それを遮るようにダンサー達がフィンランドの歌を歌い踊る。脈絡がないな、と思いながら観ていると、進行の男が「わたしは『フィンランド』ではなく『イングランド』と言ったんだ!」と叫ぶ。冒頭からダジャレ……、そして1時間半ずっとそういうノリ……。

全体的な内容としては、映画のエピソードを取り出してつなぎ、テレビシリーズから有名なネタをふんだんに取り入れ歌と踊りを加えたもの。時間やキャスト、再現性の問題及びエリックの趣味もあるのか、アンスラックス城のエピソードなど完全に削られている部分もあった。また、映画の唐突なオチをミュージカルに持ってくるのは苦しいのか、映画ではアーサーの話の中だけにでてきた湖の乙女とアーサーが結ばれる展開に加え、ランスロットはなぜかゲイで、あっさり馬鹿王子(映画でテリーJが演じていたミュージカル好きの王子)と結婚してしまったのにはとても驚いた。湖の乙女が「わたし、アーサーじゃなくてランスロットのファンなの」と嘯くのは、アーサーの嫁がランスロットと不倫したのにかけてるのか、まあ、そうでなくともアーサー役の俳優がいまいちぱっとしないのに比べて、ランスロットは素敵だった。それにしたって、映画であんなに(若かりし日のマイケルが)かわいかったガラハド卿が、キザでうざったいキャラクターになっていたのは悲しくてしかたなかった。

おなじみのギャグに笑い転げ、それなりに楽しかったんだけど、正直言えば見方に困るミュージカルでもあった。多分わたしにとっては、パイソンと切り離しては観ない類いのミュージカルだし、逆に、パイソンと比べて観るにはあまりに力弱くもあった。結局パイソンに思いを馳せて、懐かしんで、パロディとして楽しむためのミュージカルなんだろうな。なんだか後ろ向きだけど。配役にもほんのりパイソンを意識したような部分もあり、特にランスロットやフランス兵など、要するに映画でジョンが演じていた役を演じたKit Ortonという俳優は、ジョンととてもよく似た声を持っていた(見た目は全然似ていないけど)。

複雑な思いもありつつの初ウエストエンドは、それでも楽しかった。いい経験だった。狭い座席は右隣にいた大柄な女性にはきゅうくつすぎて、インターミッションのときに彼女が立ち上がるからトイレに行くのかと思って避けようとしたら、「違うの違うの、ストレッチしないと体が苦しくて!」と慌てて弁明された。カジュアルな服装で、大声で笑って、休憩中は席まで物売りが来て、ビールやアイスクリームを楽しみながら観るミュージカルは、わたしが今まで日本で経験したミュージカルとはまったく雰囲気の違うものだった。

5時半開演だったので、パンフレットを買って外に出ても、まだ外は明るい。お向かいのパブの前ではたくさんの人がビールを飲んでいる(余談だが、はじめてロンドンに行ったとき、夕方になるとパブの外でたくさんの人がテーブルもないのに立ってビールを飲んでいるのが不思議でしかたなかった。ビールを持って何か別のイベントに行列しているのかと思った)。さすがに混ざる勇気はなかったので、帰りにスーパーマーケットでビールを買って帰った。

適当に選んだGRABBIE'Sというジンジャービアがとてもおいしくて、幸せな気分。滞在中は夜はこれを、酔いたくない昼間はアルコール度数1%のサイダーを飲んでいた。毎日。あまりに気に入って、帰国後日本でGRABBIE'Sを買えるお店を探しているけれど、まだ見つからない(誰か知っていたら教えてください)。

テレビをつけるとパラリンピックの閉会式を中継しており、コールドプレイの演奏がはじまる。自国開催だからか、毎日のニュースや中継でもパラリンピックが大きく扱われていて、そういった部分には好感を持つ。気づけばそのまま眠っていて、意識が戻ると真夜中。慌ててテレビを消して寝直した。やけに疲れていて、どうやら今回は時差調整に失敗したらしい。