読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

安心コート

よしなし

二十歳で大学生のわたしにとっては、2万円の「Le Minor」のショートコートすら安い買い物ではなかった。確か、原宿のユナイテッドアローズで見つけて、一目で気に入って、一週間悩んで再度お店に行ったんだった。なくなっていたらあきらめようと思って。

キャメルのウール。とてもシンプルなカッティングで、とりたてて珍しい印象ではないのに、同じデザインのものを見たことは一度もない。薄っぺらくて気楽に着ることができて、買ったときよりむしろ、年月を重ねれば重ねるほど愛着が湧いた。

数年前に、ポケットの端が切れた。既に購入して十年が経っているから、2万円のコートの寿命としては十分なのに、わたしは補正屋に修理を頼んだ。補正屋さんは「これ、外国のでしょう」と言った。フランスのコートです、と答えると、「やっぱり」と吐き捨てる。裏地もなくて端は切りっぱなし、こんな適当な作り、日本の洋服じゃありえないわ、と。

いつの間にかこれが、わたしの持つ中で一番古くて、一番安いコートになった。ウールがぺらぺらになって、すりきれた質感になってきて、多分これを着ているわたしはちょっとみっともない。とうとう袖口が切れた。でも捨てられない。この夏に、思い切って9年間大事に着たお気に入りのワンピースを捨てた(布が弱って、素敵なプリントが色あせて、どうしようもなくなっていた)のに、このコートはいまだに処分する気になれず、週に何度か出勤するときに着てしまう。着ていると心地よくて、ほっとする。これはもしかして、「安心毛布」もといわたしにとっての「安心コート」なのかな。