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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

大人になれば(鉄道男子編)

大学の同窓である友人Sの長男Hくんは、幼稚園年中さんにして、立派な「鉄」である。
Sもご主人も、鉄道には関心がないどころかむしろオタク的マニア的な物事への執着を良しとしないタイプなので、息子が鉄道オタク(いわゆる「鉄」)になろうとは思ってもみなかったようだ。しかし、まだ乳児だったHくんを抱いて近所を散歩したSのお母さんは、帰宅するなりこう言ったのだという「この子、電車好きよ。線路沿いを歩いていたとき、東西線を見上げる目が違ったもの」
さすが、3人の子を立派に育て上げた女性の観察眼は違う。実際Hくんは、両親のため息を尻目に、日々鉄道への関心を増大させていった。

友人の上京ついでに、久しぶりに大学時代の仲良し3人で集まることにした。日曜の昼、S宅の近所で、ランチ。待ち合わせに少し遅れてきたSは、「ごめん、上の子がぐずっちゃって」と謝罪する。大好きなお母さんが外出するあいだ、お父さんと留守番することになっていたHくんはその日、起床してふと幼稚園からもらってきた「こども新聞」を手にして、そこに「200系新幹線引退」の記事を見つけるなり大声で泣き出したのだという。
「母ちゃんはいなくなるし、200系は引退するし、もう嫌だ!*1

昼食後、Sのお宅にお邪魔して、Hくんと久しぶりに対面したのだが、一緒にいた友人が「Maxとき」に乗ってきたと聞くなり彼は硬直した。それから「でも……でも……」と声を絞り出し、堰を切ったように、自分がかつて「Maxとき」に乗った経験や、上越新幹線に関するうんちくを語り出した。オタクやマニアというのは往々にして負けず嫌いなのだ。面白がってSは、「H、あーちゃんは大分に住んでたんだよ。湯布院の森号のところだよ。ソニックにも乗ったことあるんだよ」とわたしを指す。悔しそうな顔をして、Hくんはやはり「ソニックの頭の赤いところ、なんだか知ってる?」等々うんちく勝負を仕掛けてくる。

それにしたって、大変な電車好きだ。

「この子の将来の夢、何だと思う?」ふいに聞かれて、考え込んだ。車掌さん、運転手さん、ともかく電車に関連するものだろう。幼稚園の誕生会で将来の夢を発表することになり、本人に聞いてみたところ、親ですら驚愕する答えが返ってきたのだという。
成田エクスプレスの連結器、だって*2
爆笑するわたしや友人に向かい、Hくんは電車の写真が載った絵本を差し出し、誇らしげに「成田エクスプレスの連結器」を紹介してくれる。確かに素敵だね(多分)、格好いいね(多分)、でも、大人になってもきっとこれにはなれないね。

趣味がマニアックすぎて、同世代の子どもとのコミュニケーションに若干支障がでている様子で、両親としても心配なのだろうが、それでも子どもが喜ぶからとついつい休日は電車に乗りに出かけてしまう。つきあって何度も何度も聴いているうちに、親まで「鉄道唱歌」を覚えてしまう……。ああ、子育てってたいへんそうだ。

*1:実際の200系引退は4月のことなので、その「こども新聞」は少々古かったかもしれない

*2:ほかの夢はないかと問い詰めたところ、「階段(みんなを2階に上がらせてあげたい)」という回答に絶望。しかし最終的にテレビで見た「電車の点検スタッフ」への誘導に成功し、誕生会を乗り切ったらしい