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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

NYC Ghosts & Flowers

悪天候のため飛行機の離陸は1時間半遅れ、到着したNewark空港からのリムジンバスも予定時刻を過ぎてやってきた。そのうえマンハッタンは大渋滞。道路を埋め尽くす自動車があちこちでクラクションを鳴らしている。強すぎる冷房に体は凍え、運転手がようやく空調を止めたときには車内から拍手がわき起こるほどだった。よろよろとさまよい出たターミナル駅の広さに圧倒され、駅員に尋ねてようやく地下鉄乗り場にたどりつく。「UP TOWN」「DOWN TOWN」という表記を理解するのに時間がかかったせいで逆向きのホームに降りてしまい、ラージサイズのスーツケースを抱えて慌てて後戻り。ホテルにたどり着いたときには予定を3時間過ぎ、すっかり日も落ちていた。

水と食べ物を買いに行こうと外に出る。東西南北を把握しさえすれば便利な碁盤目の街も、着いたばかり、薄闇の中では惑うばかり。数ブロックごとに赤信号に引っかかり、律儀に立ち止まっていると、背後から来るスーツの男が陽気に言う。
「赤信号で止まる必要なんかないんだよ、だって、ここはNYなんだから!」

量り売りの店で夕食を買い、外に出ると突然の雷雨。高層ビルの影が巨大な幽霊みたいに襲いかかってくる中を、逃げるように小走りで宿まで。ホテルはこぎれいだけど安普請で、バスもトイレも共用(立地は最高だったけれど)。隣室の話し声、緊急車両のサイレンがときおり部屋の中まで聞こえてくる。値段は決して安くない。「都会の嫌なとこを煮詰めたような街」という第一印象を噛みしめ、眠りについた。

よく眠ったおかげで、翌朝は気分がよくなっていた。公園を、街を、ミュージアムを。見とれたり(パブリックアートがあちこちにあるのは、悪くない)、にわか雨に毒づいたり、道に迷ってため息ついたり、でも夕方には、この街の歩き方を少しだけ身につけた気がして、帰るのが少しだけ寂しい、と思いはじめていた。

「どこから来たの?」
「東京」
「どのくらいいるの?」
「たったの1日。日本に帰る途中に寄っただけ」
「短すぎるね。また、戻ってきたい?」
「もちろん」

(そんな会話を交わしながら)

高層ビル街は、見上げるたびあまりにスケールが大きくてぞっとする(慣れているから気づかないだけで、東京もこんな風だったろうか)、やかましくて、ホテルもミュージアムも高くてうんざり。でも、もう少しだけここのことを知りたいような気がして、後ろ髪を引かれた。そういえばわたしは、この街を描いた絵のことを、とても好きだった。